ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー餓鬼ヶ原樹海:深部ー

餓鬼ヶ原樹海に到着したのはまだまだ日の高い日中だった。それから日が暮れるまで悠は殴られ蹴られ投げ続けられた。徹底的にボコられ襤褸切れのようになって地面に転がっている。

夜見「なんで?もう動けねえのか。口ほどにもねぇな。」

悠「ヒュー……ヒュー……」

息も絶え絶えでまともに返事もできずに倒れ伏せている。

夜見「……まあいい今日は修行初日だ。早めに休ませてやるよ。体力を回復しておけ。」

そう言い残すと顔面蒼白で固まっている城の首根っこを引っ掴んで暗闇の森の中へと消えていった。後に残るのは不気味なほどの静寂の中でヒューヒューとこぼれる悠の呼吸音だけ。

悠「……クソッ。」

まだ薄明りが零れていた森に完全に夜の帳が落ちた頃、ようやく身体を僅かに動かせるようになった。

……痛ぇ…左足は…ダメか…。骨も、筋肉も全身限界だ…これじゃマトモに闘えるわけがねぇ…。

……泣き言言ってる場合じゃねぇな…まずは傷の手当と食糧の確保……それから日の出までひと眠りだ……。

痛みで軋む身体を起こすとまったくの無気配だったはずの背後から声が落ちてきた。

夜見「再開だ構えろ。」

悠「なッ……」

振り返った瞬間、顔面に衝撃。前蹴りが炸裂した。

夜見「油断しすぎだぜ。誰が朝まで休めといった?言っただろ「昔同じように志した奴が死んだ」と。お前もここで死んでみるか?」

そこから薄っすらと空に明るみが出てくるまでの間、とにかく殴られ続けた。反撃を試みることもできない致命傷にならないように必死にガードするだけで精いっぱいだった。

悠「ゲホッゴホッ……オゲェッ!」

夜見「もうじき夜が明ける。「初日の修行」はここまでだ。一休みしたら「二日目の修行」を行う。」

とっくに今日はもう二日目の入っている。つまりあと数時間もしないうちに再び襲いかかってくるという現実……。そして樹海の木々の隙間から日の光が入り込む。

すると今度は正面から夜見が現れた。痛みの走る全身に鞭を打って悠は夜見に喰らいついていき、拳をブチ当てに行くも夜見は容易に避ける。

夜見「どうした!?当てる気あるのか!?」

修行初日に引き続き、夜見に翻弄される悠。より正確には、「初日以上に」ダメージが蓄積している分、確実に動きは鈍くなっていた。

必死に腕を振るうが、拳を撫でるように手を添えると悠の身体は綺麗に一回転して地面に叩きつけられた。そして、頭を踏みつけられ意識が飛ぶ。

修行2日目良いところが無いまま終了。

意識が飛んだあと放置された悠が目を覚ますと何とか身体をよじり近くの野草を引き千切ると手の中で握りつぶし全身の傷に揺りつけていく。

悠「痛ッッ…………よし。「飯」の時間だ。」

そう呟くと木の根元まで移動して木肌に蠢いている巨大なムカデを捕獲した。普通のムカデの2倍のサイズはある虫をそのまま口へと運んだ。ガツガツと咀嚼して喉へと落として行く。

自生する薬草と栄養価の高い「食事」、悠は早くも餓鬼ヶ原樹海の環境に適応しつつあった。
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