ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

寅は拳を振るう。瀕死の状態とは思えないフックがアギトに炸裂する。ガードで受け止めるが衝撃をいなし切れず大きく身体が傾いた。

寅もギリギリなのか追撃の出が襲い。フラフラとしながらも何とか右足を振り上げるが一手遅くアギトの蹴りが先に当たってしまった。脇腹に打ちこまれるミドルキックに意識が飛びそうになるも、歯を食いしばり寅は右の拳をぶつけた。

今までより機微が失われているといっても最強のストライカーの打撃は重い。ガードを固めているアギトの身体が押し下がり必死に反撃の機会を窺い、反撃に拳を放った。

寅はこの局面においてもキレのあるステップスウェーで牙の攻撃を避けた。側面に回り込み右ストレートを打つ。

っが……アギトは肘を突き上げ寅の鉄拳にぶつけたのだ。ベキィッと骨の砕ける音……拳が破壊された絶望の音。だが、寅はその痛みも絶望も無視し、左の拳を振りぬこうとした。

しかし、アギトの動きはそれを上回っていた。細かいジャブをぶつけて左腕の軌道を狂わし体勢を崩した。そして……左ストレートが寅の顔面に迫る。

サーパイン「トラッッ!!!」

左顔面にアギトの拳がめり込むがギリギリのところで寅は頭を振ってダメージを軽減させながら「右」ストレートをカウンターに叩きこんだ。

アギト「!!」

寅「ゼェゼェゼェゼェ」

もはや余裕も形振り構っている場合ではない。口の端から血と涎をこぼしながら両の拳を力いっぱいに握り込みがむしゃらに拳を打ち放つ、土壇場、最終局面でのフルラッシュにアギトはガードを固めるも押し抜かれ腹部や顔面を打ち抜き巨体が大きく後ろに下がった。それでも【牙】は【滅堂の牙】は踏みとどまって【闘神】に向かう。

三歩、三歩目で渾身の左ストレートをぶつけてくる。

先読み或いは予知にも近い経験則から来る確信。

寅は敵の動きを完全に読み切り攻撃に合わせてこちらから踏みこんで今の自分に出せる全てを乗せた右ストレートをぶちこんだ。

予見した通りの動き寅の究極の一撃がアギトの顔面を捉え打ち抜いた……はずだった。しかし、アギトの上半身が不意に消えた。寅の拳は空を切りアギトは寅の下半身に組みついた。

「打投極絞」を即座に切り替える。加納が一回戦で対峙した、大久保直也の戦法である。加納は既に戦法を己の物としていた。

寅を掴み上げ地面に叩きつける。

背中から落とされるもギリギリで何とか受け身を取れた寅は即座に身体を起こしたが、その瞬間、【滅堂の牙】の前蹴りが寅の顎を蹴り上げた。

ボクシング王者の肉体が、ゆっくりと地へ伏した。

アギト「ゼェゼェハァハァ……右京山寅。「貴様を打撃で凌駕すること」最後まで叶わなかった。……強敵だったぞ。過去の誰よりも。」

乱れた髪をかき上げ寅に背を向けるとレフリーの声が響いた。

チーター服部「勝負あり!!!!」
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