ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

往水「いやいや、困った困った……むぐむぐ、困った困った」

中村さんはさっきから団子を頬張りながら、しきりに同じ言葉を繰り返している。

悠「……」

往水「あぁ、困った困ったなぁ」

はな「悠さん…」

悠「はぁ……。わかりましたよ、聞きますよ。何をそんなにこまっていらっしゃるんでございますか!!」

往水「あらら、声に出ちゃってましたか。嫌ですねぇ。」

はな「どう考えたって…」

悠「わざとでしょうに…」

往水「まあいいじゃないですか。聞いたって、減るもんじゃかいですし……というか、聞いといたほうがいいですよ?」

悠「あー?」

はな「どういうことです?」

おれたちが興味を惹かれたとみるや、中村さんは、にんまり笑って話はじめた。

往水「ここ最近、商店の売り上げを狙った押し込みが増えているみたいなんですよ。知ってました?」

悠「いや……」

往水「まっ、売り上げしょぼそうなうえに用心棒付きじゃ、盗人のほうで遠慮しまさぁねぇ」

吉音「ん?あたしのこと呼んだ?」

用心棒の単語が耳に入ったのか、吉音が話に加わってくる。

往水「新さんがいるから、小鳥遊堂は安心だ……って話をしてたんですよ」

吉音「んー……ほめられた?」

往水「そりゃもう、べた褒めですよ。いよっ、学園一の番犬!」

吉音「いやぁ、照れちゃうなぁ」

はな「あんまり褒められていないと思うです…。」

往水「ところがです!」

はなちゃんのツッコミを遮って、中村さんは大声をあげる。

悠「あー?」

往水「用心棒のいないお店は、さあ大変だ。盗人がわんさと押し寄せる」

吉音「えぇ~っ!!」

往水「そんなときでも、この同心立ち寄り所シールがあれば大丈夫!」

吉音「おぉ!!」

往水「このシールが張ってあるお店には、アタシたち同心がこまめに立ち寄らせてもらいます。もう安心だ!」

吉音「悠、うちもシールを貼ろう!」

はな「新さん(用心棒)がいるです」

往水「そんなこといわないで貼ってくださいよぉ。ノルマがあるんですよぉ」

セールストークから一転、今度は泣き落としだ。

悠「っか、それなら、お隣のねずみやにいったらいいんじゃないか?あっちのほうが狙われやすそうだぞ」

往水「あっちで断られたから、「仕方なく」こっちで頼んでるんじゃないですか!」

悠「仕方なくで悪かったな!」

往水「すいません、つい本音が。ですけど、貼って困るもんでもないじゃないですか。ねぇ?」

悠「まあ……それは確かに。」

同心立ち寄り所ということになれば、 おれもお客さんも安心感が増すというものだ。
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