ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

前傾姿勢で不気味に肩を回すアギトに倒された寅は立ち上がるとヒットマンスタイルから両腕を胸元に構えるベーシックなスタイルに変えてトンットンッとステップを刻みだした。

大久保「【牙】が攻め方を変えてきよった!」

氷川「さっきの動きを見る限り、システマに似てるが……アイツ……全く底が見えねえよ……。」

【システマ】

ロシア軍隊格闘術。白兵戦におけるあらゆる局面を想定した超実戦武術である。

システマに型は存在しない。脱力した状態から繰り出される柔軟な動きで敵の攻撃を捌き、制圧する。

合気道と比較されることも多いシステマ。確かに加納の動きはシステマに近い。

初見「(……だが、ありゃ別もんだ。)」

アギト「フウウウウゥゥゥゥっ……!」

システマにあらず。答えは【特注(オーダーメイド)】。「この武術」の使い手は、【牙】ただ一人。故に【特注】。右京山寅を倒すためだけに作られた「武術」である。

滅堂「つまり【牙】は、対寅用の武術を即興で編み出したのじゃ♪」

ラルマー「この短時間でか?」

滅堂「左様。【牙】の異能は「進化」、「進化」とはすなわち「適応」。「適応」とはすなわち「攻略」。その攻略法が、「あの動き」ですじゃ。」

ステップを踏む寅に突如、肩を揺らしていたアギトが一気に詰め寄ってきた。

大久保「自分からパンチの間合いに!?」

一気に距離を詰められたが寅の判断は至って冷静だった。右ストレートのカウンターがアギトの胸に突き刺さる……が、その動きを読んでいたかのように身体を捻り軟体生物のようにグニャンッと避けた。そして、寅の抱き押さえるように肩を掴むと膝裏に足を引っかけ再び寅を地面に投げ落とした。

即座に地面に落とした寅目掛け前蹴りを仕掛けるが転がって蹴りを避け立ち上がるとジャブの連射を打つがアギトは出始めをラッシュを例のシステマチックな動きで避けつつ、寅の手首をつかみ取ったのだ。

そして、掴んだ腕を捻り体勢を崩させると右フックが寅を襲う。間一髪、肩で打撃を受け地面を踏みしめて崩された体勢を立て直すと反撃のストレートを放った。

アギト「……」

「止めよう」とするから……打たれる。ならば、「打ち終わり」を「抑える」。

寅の渾身の右ストレートが受け止められた。

あるいは、「始まる前」に「抑える」。

左のジャブ……を打とうとした寸前、関節を押さえられ初動を封じられた。

次の瞬間、アギトはグンッと身体を寅の方へ寄せるとストレートを捕えていた手を離して肘を振りぬいた。

ガッと鈍くぐぐもった音がして寅の左瞼が切り裂かれ赤い液体が吹きこぼれた。直撃していたならば眼球が潰れていただろう。しかし、避けたことにより寅の身体がやや後ろに傾いた。そこを逃すまいとアギトは寅の足を払い崩しにかかった。

だが、寅はその勢いを利用してヘッドソバットをアギトの顔面に叩きこんだ。額と鼻をしっかりと叩き潰す一撃に流石のアギトも顔を抑えた。

その隙に寅はバックステップで距離を取る。

アギト「ヌゥ……良い判断だ。だが、バッティング(頭突き)はボクシングでは反則だろう?」

寅「気にすんな。偶然はいっただけだ。」

血にまみれた顔面も拭わず二人の男は構えを取りなおし睨み合う。
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