ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:霊安室ー

ひんやりとした一室。そこは亡くなったもの静かに眠らせ、また腐らぬように保管する場所である。

最低限の照明の明かりの下、皇桜学園グループ理事長の奏流院紫苑はタバコ片手に目の前の者に語りかけた。

紫苑「……桐生…なんで普通に生きてんだよ…」

死体を眠らせるはずのベッドの上で腕を伸ばしたりしている刹那。貫通した掌と胸には包帯が巻かれているがまだ出血が止まっていないの華赤く染まっている。

刹那「紫苑さん。闘技会って案外いい加減なんですねぇ。医務室がいっぱいだ空って霊安室を待機所にするなんて。」

紫苑「心臓を貫かれた奴にはお似合いの場所だろ。松田はお前が起き上がった瞬間から気絶しっぱなしだしよ。運ぶのが大変なんだよ。」

紫苑の言う通り秘書の松田智子闘技会キャップをかぶった焼きイカ刺さっていた串を握りしめたまま白目をむいて床に転がされている。

刹那「珍妙なポーズで固まってますね。面白い子だなぁ。」

紫苑「……」

刹那「起きろい智子ちゃん。」

ベッドから身体を降ろすと床で気絶している智子の肩を優しく揺らす刹那の背中に紫苑は声をかけた。

紫苑「桐生……お前、何をやろうとしている?」

刹那「…………ごめんなさい紫苑さん。僕、負けちゃいました。紫苑さん、智子ちゃん。二人のことは大好きなんです。勝手に思ってました。姉と妹がいたら、こんな感じなのかなって。かつて僕を愛してくれた人。そして、師匠。こんなに優しくしてもらったのは、あの二人以来です。二人とももういませんけどね。」

立ち上がりこちらに振り返った刹那の顔は死人のように青白いのだが、その眼には煌々と悍ましい光が宿っている。

紫苑「……ッ!」

ゾクリと背筋に冷たいものが走り息を飲む。

刹那「智子ちゃんを頼みます。…………止めないでくださいね?これ以上、好きな人を失いたくないから。」

そういって桐生刹那はゆらゆらとした足取りで霊安室から出ていってしまった。

紫苑「……」

私は、禁忌に触れてしまったのか……?



同時刻、闘技場はざわめきで埋め尽くされていた。

【格闘王】の大久保直也が見降ろしながら口を開いた。

大久保「まだ会場がざわついとるの~」

【氷帝】の氷川が答える。

涼「そりゃざわつくだろ。心臓を貫かれた奴が、普通に起き上がったんだもんよ……。氷室の【魔槍】は完璧だった。何で死んでねぇんだよ?」

大久保「……そないなことより、問題はアイツや。なにやっとんねん、紅(あのアホ)は。」

闘技場の中央では勝ち抜いた氷室薫、名目上の秘書である虎狗琥崇、そして紅が何かを話し合っている。

崇「俺にはさっぱりわからん。なんであの男は死ななかった?」

氷室「……はい。紅さん、わかりますか?」

紅「おうっ。」

魔槍で貫かれる瞬間、桐生は自分の心臓に羅刹掌を撃ったんだ。心臓を破壊せず、位置をわずかにずらす程度の威力。

結果、間一髪魔槍を回避した。

氷室「概ね正解です。」

崇「ほお……紅もよく気付いたな。……残念だったな薫。桐生刹那は、友の仇だったんだろ?」

氷室「…………正直、安堵もしています。」

厳山さんは、弟子思いの男でした。仇とは言え、彼の遺した弟子を殺めるのは気が引けたのも確かでした。

崇「……そうか。」

紅「それよりよぉ、アンタ怪我は大丈夫なのかよ!?」

氷室「部位鍛錬は、腕が折れようが千切れようが休むこと無く行われます。指の骨折程度、なんの問題もありませんよ。」

紅「それじゃあ肩の方は…」

氷室「ふふっ、観察が足りませんね。」

彼の右掌は、魔槍で貫いた。負傷した掌では、羅刹掌の威力は半減する。無傷とはいきませんが、次戦には十分間に合います。

紅「……ッ!!」

何て先まで読んでんだよ…

崇「どうだ紅。この男は恐ろしいだろ?」

紅「はいっ、全くでさぁ。」

氷室「崇には言われたくないですね。……紅さん。アナタは、圧倒的に経験が足りない。今はただ「見る」強くなりたければね。そうすればきっと成長に繋がりますよ。」

紅「おうっ!!」
28/100ページ
スキ