ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

刹那の身体から魔槍が引き抜かれる。しかし、指先しか血にまみれていない。浅いッッ……!!

それでも胸と鳩尾から血をまき散らした。

刹那「フゥー……!!」

異変を察知した氷室は追撃を断念する。

研ぎ澄まされていた。刹那を突き動かすものは、唯一つ。

眼前の氷室?

否。

弥一の幻影?

否。

刹那の思い描く、理想の悠の為……!!

鞘香『刹那選手、右掌を負傷!羅刹掌に影響が出そうだ!一方の氷室選手も右手を負傷したか!?』

ジェリー『FIGHTは終盤に差し掛かってマース!!駆け引きの段階ハ終わりマシタ!攻メテ攻メテ攻メ抜いた方が勝ちデス!!』

刹那「ハアアァァッ……!!」

羅刹掌(足)を利用した超速移動で狂ったねずみ花火のように氷室の周りを駆け惑わせる。

鞘香『っとオオオオオオ!!桐生選手が仕掛けたッッッ!!!!』

氷室「!!」

ギャギャギャッと地面を削る歪音が氷室へと襲いかかる。

【孤影流:羅刹掌】×【冬花流:水燕】

【冬狐ノ交】

異常な軌道性と超速連射を合わせた絶命撃が氷室を飲みこむ。うねる螺旋の激流の中で氷室は全ての攻撃を避けていた。

アギト「(さすが氷室薫。素手に見切ったか……。)」

怒涛の攻撃を捌き切っていると思った矢先、軌道が大きく変貌した。ただでさえ動きが見切りにくい技であったが急激なパターン変更に遂に羅刹掌(冬狐ノ交)が氷室の肩を捩じりぬいた。

鞘香『あッッッ!!!当たったアアアア!!羅刹掌が当たったアアアア!!』

捻じれ潰れる……っと思った瞬間、刹那の口から鮮血が吐きだされた。

「「「!!??」」」

鞘香『せッッ、刹那選手が吐血!!!こ、これは……さ、刺さっている!!!負傷した右手の魔槍がッ!!!桐生選手の胸部に刺さっている!!』

アギト「!!」

氷室薫。ここまで読んでいたか。

桐生刹那は、氷室の右手に傷を負わせた。以降、氷室が繰り出したのは、左手による攻撃のみ。無意識のうちに注意は左手に集中する。

右手を負傷させたという事実があれば尚のこと、甘くなっていた右手の警戒。氷室薫は、その隙に付け込んだ。

……だが、あくまで可能性が高いととうだけだ。決して確実ではない。氷室ほどの実力者が駆けに出ざる得ない。桐生刹那もまた、尋常の者ではない。

氷室「……この私に左腕を捨てさせるとは……惜しいですね。」

刹那「ゴボッ」

刹那の右腕を掴み、左の魔槍をより深く刺し込んでいくと更に吐血をした。

【羅刹掌】とは、背→肩→上腕と伝わってきた力を前腕の旋回で増幅、強烈な捩る力へと変換する打撃。前腕の旋回が不十分な至近距離では技の威力は半減する。

……ああ、そうだ。コレならいけるかな…?

もはや死に体であるはずの刹那だが胸を貫かれながらゆっくりと左腕を持ち上げる。

指先に威力を集中。

桐生刹那…………この窮地に、新たな羅刹掌を完成させる。

【真・羅刹掌】

ゼロ距離から進化した一撃を抉りこもうとしたが……氷室は即座に突き刺していた魔槍を引き抜き、真・羅刹掌の最終加速か乗る寸前に刹那の脇に腕を捻じ込んだのだ。

脇を抑える形攻撃を阻止し、氷室は更に前へと一歩踏み込み、刹那の顔面に頭突きを叩きこんだ。

大きく後ろに仰け反る刹那、氷室は一歩下がり【抜拳】……ではなく、抜拳の動きと同じように腰を切りつつ腕ではなく足を振るった。低く弧を描く超速のローが刹那のふくらはぎを弾き、破壊した。

右掌、胸部、右足が破壊され刹那はボロ人形のようにふらつく。そこへトドメを刺そうと氷室が迫った。

……そうか…これは、君が僕に与えた試練なんだね?

小鳥遊悠。

わかった、乗り越えてみせるよ。

真っ正面から放たれる【魔槍】が刹那の胸を完全に穿った。胸に穴があき、背から貫通し鮮血が吹き上がる。

氷室「……愚かですね。この私に付け焼刃の技など通用しません。」

鞘香『勝負ありッ!!!勝者、氷室薫っ!!!』

氷室「地獄で厳山さんに詫びるがいい。」



【抜拳者】氷室薫、三回戦進出。
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