ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

攻め気質が変わった桐生刹那が踏みこんでくる。氷室は抜拳で迎え撃った。しかし、放たれた拳は空を切る。

【瞬】ではない、火が揺らめくが如く歩法【火走り】。

久秀「(一回戦で悠が使った技!やはり桐生刹那は、小鳥遊流……いや、十神の技を使える?)」

紫苑「(……どうなってんだこりゃあ?)」

緩急をつけた独特の歩法で視野に残像を残しつつ刹那は氷室を中心に囲い歩む。一週するかしないかの瀬戸際で突如鋭角に飛び出し、羅刹掌を抉りこむ。

氷室は上半身を反らしてそれを避けるも僅かに掠ったのか胸元のシャツが裂けて鮮血が吹きだした。

鞘香『出血!!!』

ジェリー『NOッッまだ浅イ!!』

刹那は足先で地面を踏み加速を急停止させるとその場で180度ターンで振り返り氷室の腕に手を添え撫でるような振るった。

【冬花流:柳】

氷室の身体が空に投げ上げられるが二度ほど回転して足から綺麗に着地をした……が、既に目の前には刹那が距離を詰めており着地を狙った前蹴りが放たれていた。だが、氷室もそれを読み切っていたのか既に両腕をクロスさせて蹴りを防ぎ止め踏みとどまった。


小鳥遊悠と桐生刹那、二人の出会いは、全くの偶然だった。きっかけは、刹那を攫った臓器密売組織。

この時、本来は立ち入り禁止とというか国家規模で奪還をあきらめた無法地帯に小鳥遊弥一が暇つぶしがてら中の狂人たちを狩りに来ていた。そこに無理やり連れてこられたのが孫である小鳥遊悠だ。旅行感覚で足を踏み入れる場所ではない、ましてや年端もいかぬ子供などもってのほかだ。

だが、小鳥遊弥一は悠を残すと反対側から回ってこい。死にたくなければ必死に抗え……と言い残して反対側に消えていった。そうしているうちに悠も件の臓器売買組織に捕まりかけたが逆に本拠地を襲撃する形で暴れまわった。その時、居合わせたのが刹那だったが意に返さず(自分のことで手いっぱいだったため)その場を去っていった。

対して……桐生刹那の考えは違った。

刹那は思った。彼(=悠)こそが罪深い人間(=刹那)を罰する神であると。

そしきの混乱に乗じ、刹那は逃亡した。否……追いかけた。刹那は、「中」に留まることを選んだ。再び、「神」と巡りあう為に。

この時、最大の間違いは小鳥遊悠が「外」の人間と気がつかなかったことだ。

そして、刹那の「中」での生活が始まった。少年一人の力で生き抜くにはあまりに過酷な環境。

刹那は、男娼として生きる道を選んだ。「中」での庇護者を探すために。やがて、「中」の一区画の有力者に寵愛されるようになる。

一歩、「神」へと近づいた。この頃、刹那は、愛人の男を伴って「外」へ向かった。

向かった先は、かつて自分の誘拐を依頼した実父の邸宅。恨みによる犯行ではなかった。刹那の知る最大の資産家は父だった故に、殺して奪った。

「中」は広大な面積に加え、治安も不安定。刹那一人での捜索には限界があった。人手が必要だった。

「中」出身の裏社会の人間。
「中」と通じる闇のブローカー。
「中」を制限なく探索できる剛のもの。

使えそうな人間を片っ端から雇った。父の残した人脈と、父から奪った財産を惜しげもなくつぎ込んだ。愛人の男が代理人となり、刹那の望むままに動いた。もはや男は、刹那の傀儡となっていた。

刹那は確信した。神との再会は間近に迫っていると。

初の邂逅から二年の後……遂に、刹那は「神」の居場所を知る。小鳥遊弥一という者の存在とその孫が「神」であること、そして「中」ではなかった。まさかの「外」の「日本」。

止める愛人の男を殺し、刹那は「外」へと向かった。

嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて……刹那は日本へと向かった。待ち望んだ「罰」は、目前だ。

しかし、刹那が遂に見つけた神の姿は……あの頃とは違っていた。成長しているからとかではない、あの時の悪魔のような殺意をむき出した気配がなくなっていたのだ。

あれが……神の姿なのか……?僕が探究し求めた…神だというのか…?

この日を境に、刹那は「中」には戻らず姿を消した。
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