ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

絶命の一撃が桐生に着弾しようとした、その時だった……掴んでいる桐生の右腕が僅かに動いた。

氷室「!!」

【抜拳】されていた【魔槍】が停止し、投げていた側の氷室が空中に投げだされたのだ。

「「「!!!???」」」

今までどれだけの猛攻をも完全に制していた氷室が円の中から投げだされた。桐生はドサッと地面へと落ちて氷室は投げ捨てられたがしっかりと受け身を取り着地し即、戦闘態勢へと切り替えた。

しかし、桐生は仰向けに横たわったまま動かない。

観客席で松永工業社長の松永久秀が眉をひそめた。

久秀「今のは…」

あの技は……小鳥遊流(悠の技)!?

正確に言えば四季流がひとつ「秋」を司る秋宵月流の【力動流し】と酷似していた技で氷室を投げたのだ。

氷室「……ふむ。問いただす必要があるようですね。その技、誰から教わった?」

その問いかけに桐生は答えなかったが大の字に横たわった体勢から足の力だけで立ちあがり、着地と同時に深く膝を折って氷室へと飛びかかった。

氷室は即座に迎撃の体勢へと移る、踏み潰す市にかかるような前蹴りを抜拳で弾こうとしたが逆にこちらが蹴り弾かれた。

これは……!?「質」が変わった!!

弾き押され上半身が反り上がった懐に【羅刹掌】が抉りこんでくる。受け……は不可。上半身が逸れた状態では抜拳もできない。それを察した氷室は地面を強く蹴り大きく一回転して紙一重で羅刹掌を避けながら刹那の背後へと回りこんだ。

だが、既に刹那もこちらへ向き直っており、両腕で羅刹掌の連射を仕掛けてきている。

一体貴方は、何者!?

その時、氷室は桐生刹那の顔を見て驚いた。

笑顔、眉を八の字にし瞳からはボロボロと涙を、三日月のように裂けた口元からは涎を垂らしているが恍惚の笑みを浮かべている。

刹那「もう二度と邪魔はさせない」

全ては、その日から始まった。

小鳥遊悠…僕が、「神」と出会った日……。

某国に存在する「不法占拠地区」総面積48.77㎞2。通称「中(なか)」。事実上、奪還を放棄した不法集落。推定20万人が暮らす法の及ばぬ無法地帯である。

桐生刹那。彼は、「中」を拠点とする臓器密売組織のアジトに囚われていた。ある人物の依頼によって……依頼人は、彼の実の父親。もっとも父親と出会ったことは一度しかない。

彼の実父は、病魔に侵されていた。臓器移植は成功したものの再発率は極めて高い。

一計を案じた実父は、ある娼婦に法外な金額を提示し、子を産ませた。そして、彼は生まれた。実父の臓器のストックとして。

彼は、死を受け入れていた。母は、頻繁に彼を殴った。実父に唆され、小銭で産まされた疫病神と罵られた。

物心がつく頃には、自分が誰からも必要とされない人間だと思い込んでいた。成長に伴い、彼は自身を「罪深い人間」「死すべき人間」と認識するようになった。

母親は既に口封じで殺され、彼も間もなく「解体」される。「生」には、何の未練もなかった。

その時だった、膝を抱えて地面に座りこんでいる自分の目の前に顔面が殴り潰された男が転がってきた。何が起こったのかと頭を上げると、自分と変わらぬ、もしかすれば自分よりも年下かもしれない少年が武装した男や臓器を取り出すために準備をしていた白衣の人間を叩きのめしていた。

それが、小鳥遊悠との出会いだった。
23/100ページ
スキ