ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

氷室は抜拳を放つ。しかし、桐生は後ろに飛び退き、今さっきより大きく円を広げた動きにでる。

厳山さん。貴方は弟子を誤った。

刹那「ブッブッ……無……ブッブッ……殺っ……ブッブッ……」

瞬の速度を上げつつ桐生はガンッと目を見開いて不気味に呟き続けている。

本来なら目で捉えることは困難な瞬の動作の中で刹那の手が僅かに形を変えていくのを氷室は捉えた。

氷室「!!」

鋭いドリルのような打撃が顔面目掛け突き放たれる。拳や掌でなく側面を軽く打ちつけて軌道をずらす。しかし、かすり抜けていった部分が裂け千切れ氷室の手から出血する。

……警戒すべきは、羅刹掌。

厳山さんのオリジナルより大きく捻りを加えることで殺傷力が大幅に増している。防ぎ方を誤れば、致命傷となりますね……。

鞘香『矢継ぎ早に攻める桐生選手。一方の氷室選手も危なげなくこれを凌ぐ。さすが実力者同士!簡単に決着はつきそうにありません!』

実況をする鞘香の隣で解説のジェリー・タイソンは何故か今までのようにマイクを取らず、ずっと首をひねっていた。

Hmm……?なんだ、この……?何かが引っかかる……?…………!!?

それに気がついた時、ジェリーは思わず立ちあがって叫んでいた。

ジェリー「WFT!!?何だあれは!!!」

な……なんという……!なんということだ!!!……無理(IMPOSSIBLE)ダ。誰もあの男には勝テナイッ…!!!

鞘香「じ、ジェリーさん?」

ジェリー「JESUSCHRIST!!」

ジェリー・タイソンが気がついたもの、それは氷室薫の足下だ。地面に筋が走っている。それはコンパスで引いたような円形の筋。

アレは……前足をMOVEした跡……天狼拳の天才拳士レン・ニカイドーを圧倒した…セツナ・キリュー。

そのキリューを相手取って、炎の中から一歩も動かずにATTACKを凌いでいル!!??

刹那「……」

桐生は【瞬】が効かないのを理解すると氷室の真っ正面を陣取り【羅刹賞】を両手で放つ。足を止めたことによりスピードと威力が増した一撃。だが、氷室はその【羅刹掌】にも対応し【抜拳】で左右に弾いた。

氷室「……」

貴方の羅刹掌は、厳山さんのオリジナルより殺傷力に偏重した分、動作が大きい。即ち【瞬】と併せて使うことで初めて真価を発揮する。

【瞬】を見切られた貴方の攻撃は、私には届かないッ!!


氷室薫は動作が大きいというが、それは氷室薫が故である。

機関銃のような超連射で一発でも当たれば即死ともいえる【羅刹掌】に円の中から一歩も動かず完璧に対応し防ぎ続ける。

勝ち抜いた闘技者、負けてしまった闘技者、戦士、殺し屋、暗殺者……現在この仕合を見ている全ての人間が驚愕した。

次・元・が……違う!!!

アギト「くっ、くははははっ!!」

唯一【滅堂の牙】加納アギトだけが愉悦の笑いを漏らしている。

永遠とも思える均衡は突如崩れた。

放たれた【羅刹掌】を【抜拳】で弾くのではなく、つかみ取ったのだ。氷室は即座に次の行動に移しながら今大会で初めての殺意を見せた。

氷室「身の程を知れ」

刹那「!?」

掴んだ腕を引き吊りながら足を払った。空に投げだされる桐生刹那へ「拳」ではなく「貫手」版の【魔槍】を突き放ったのだ。
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