ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】
ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー
鞘香『【抜拳】VS【美獣】獣を貫くか!?獣が噛み砕くか!!』
アンナ「始めッッめェッ!!!」
鞘香『時は来たッ!!!それだけだッッッ!!!!!』
開始の合図、氷室薫は両「拳」を鞘(ポケット)へと収めた。そして空手でいう猫足立ちに構えを取る。一動作一動作に迫力があり、まさに堂に入っていた。
鞘香『氷室選手、猫足立ちに構える。』
桐生刹那はどこを見ているのか右へ左へと小さくゆらついていたが瞬間、姿が消えた。
【孤影流:瞬】
氷室「……」
やや右側面から突如姿を現し突きを仕掛けるが、氷室はキッチリと出現位置を読み切っており腰を切り正面に刹那を捉えて抜拳で突きを弾いた。
桐生は動きに対応されたことにも突きを止められたことにも特に表情を変えず、再び姿が消えた。
今度は左、真横から現れ鋭い突きを狙ってきたが氷室は片膝を地面に着き、丸まるように身を屈め突きを避けた。更に桐生は踏みこみ先に塊となった氷室にぶつかって頭から地面へと転び落ちる。普通ならばそのまま転げていたところだろうが自分から勢いをつけあえて一回転して受け身を取った。
その逆に氷室は即座に立ちあがり地面に着地した直後の桐生目掛け抜拳を打ち放つ。
着弾……スレスレで桐生は後ろへと跳ね飛んで攻撃を避けると同時にまたまた姿を消した。水面を優雅に跳ねる水黽(あめんぼ)の如く氷室を円の動きで囲み攻撃が炸裂する。
全方位からの攻撃に氷室は抜いていた拳を鞘へと収めると素早く最少かつ最速の動きで腰を切りながら抜拳し続けた。
顔面狙いを弾き、脇腹狙いを反らし、股間狙いを叩き落とす……そして最後、正面からの突きを払い伏せ全ての攻撃を完璧に制したのだ。
刹那「チッ」
一度たりとも直撃はおろかかすりもしなかった。これには今まで無反応だった桐生も舌打ちを飛ばした。
氷室「……」
無駄ですよ桐生刹那。
【瞬】とは、「死角」を利用した技。瞬きに合わせ移動することで、あたかも眼前から消えたかのように錯覚させる歩法。さる実戦空手の流派にも同様の技術が存在する。
タネを知るこの私には通用しないッ。
「孤影流には歴史がない」
東京、池袋のとあるバー、クラッシックジャズの生演奏が心地よく流れる店内のカウンター席のスツールに腰かけた苔色の道着に濃紺の袴姿の平良厳山がウィスキーグラスを口に運びながらつぶやいた。
その言葉に隣に腰かけている氷室がいった。
氷室「歴史、ですか?孤影流は、400年余は続いているのでしょう。」
古木のように刻まれて皺をより深く沈ませながら平良は答えた。
厳山「数字の上では、な。実際は、先の大戦で門下生の殆どが死に、事実上その技術は失われた。宗家の血を引く俺が、古文書をかき集めて技法を再編してはみたものの、使える技はごくわずかという有様よ。」
氷室「然り。技術とは、時代の移ろいと共に変化していくもの。無論、全てがそうとは言いませんけどね。」
厳山「現状……現代で通用する技術は二つ。瞬きを利用した歩法「瞬」そして、捩じり込む打撃「羅刹掌」。」
氷室「おや、私に手の内を明かしても?」
厳山「謙遜するな。羅刹掌はともかく瞬が貴様に通用するとは思えん。……今は二つの技しかないが、俺は、新たな体系を作るつもりだ。最近、成り行きで弟子を取った。贔屓目抜きに、才能のある童(ワッパ)だ。伝えてやる技が二つだけでは気の毒だからな。氷室、孤影流は強くなるぞ。」
無骨な顔に小さく笑みを浮かべた平良、それが氷室が最後に見た厳山の顔だった。
鞘香『【抜拳】VS【美獣】獣を貫くか!?獣が噛み砕くか!!』
アンナ「始めッッめェッ!!!」
鞘香『時は来たッ!!!それだけだッッッ!!!!!』
開始の合図、氷室薫は両「拳」を鞘(ポケット)へと収めた。そして空手でいう猫足立ちに構えを取る。一動作一動作に迫力があり、まさに堂に入っていた。
鞘香『氷室選手、猫足立ちに構える。』
桐生刹那はどこを見ているのか右へ左へと小さくゆらついていたが瞬間、姿が消えた。
【孤影流:瞬】
氷室「……」
やや右側面から突如姿を現し突きを仕掛けるが、氷室はキッチリと出現位置を読み切っており腰を切り正面に刹那を捉えて抜拳で突きを弾いた。
桐生は動きに対応されたことにも突きを止められたことにも特に表情を変えず、再び姿が消えた。
今度は左、真横から現れ鋭い突きを狙ってきたが氷室は片膝を地面に着き、丸まるように身を屈め突きを避けた。更に桐生は踏みこみ先に塊となった氷室にぶつかって頭から地面へと転び落ちる。普通ならばそのまま転げていたところだろうが自分から勢いをつけあえて一回転して受け身を取った。
その逆に氷室は即座に立ちあがり地面に着地した直後の桐生目掛け抜拳を打ち放つ。
着弾……スレスレで桐生は後ろへと跳ね飛んで攻撃を避けると同時にまたまた姿を消した。水面を優雅に跳ねる水黽(あめんぼ)の如く氷室を円の動きで囲み攻撃が炸裂する。
全方位からの攻撃に氷室は抜いていた拳を鞘へと収めると素早く最少かつ最速の動きで腰を切りながら抜拳し続けた。
顔面狙いを弾き、脇腹狙いを反らし、股間狙いを叩き落とす……そして最後、正面からの突きを払い伏せ全ての攻撃を完璧に制したのだ。
刹那「チッ」
一度たりとも直撃はおろかかすりもしなかった。これには今まで無反応だった桐生も舌打ちを飛ばした。
氷室「……」
無駄ですよ桐生刹那。
【瞬】とは、「死角」を利用した技。瞬きに合わせ移動することで、あたかも眼前から消えたかのように錯覚させる歩法。さる実戦空手の流派にも同様の技術が存在する。
タネを知るこの私には通用しないッ。
「孤影流には歴史がない」
東京、池袋のとあるバー、クラッシックジャズの生演奏が心地よく流れる店内のカウンター席のスツールに腰かけた苔色の道着に濃紺の袴姿の平良厳山がウィスキーグラスを口に運びながらつぶやいた。
その言葉に隣に腰かけている氷室がいった。
氷室「歴史、ですか?孤影流は、400年余は続いているのでしょう。」
古木のように刻まれて皺をより深く沈ませながら平良は答えた。
厳山「数字の上では、な。実際は、先の大戦で門下生の殆どが死に、事実上その技術は失われた。宗家の血を引く俺が、古文書をかき集めて技法を再編してはみたものの、使える技はごくわずかという有様よ。」
氷室「然り。技術とは、時代の移ろいと共に変化していくもの。無論、全てがそうとは言いませんけどね。」
厳山「現状……現代で通用する技術は二つ。瞬きを利用した歩法「瞬」そして、捩じり込む打撃「羅刹掌」。」
氷室「おや、私に手の内を明かしても?」
厳山「謙遜するな。羅刹掌はともかく瞬が貴様に通用するとは思えん。……今は二つの技しかないが、俺は、新たな体系を作るつもりだ。最近、成り行きで弟子を取った。贔屓目抜きに、才能のある童(ワッパ)だ。伝えてやる技が二つだけでは気の毒だからな。氷室、孤影流は強くなるぞ。」
無骨な顔に小さく笑みを浮かべた平良、それが氷室が最後に見た厳山の顔だった。