ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

今の今まで、というか、これまでも大声で叫び続けていたサーパインが急に静かになった。さやかは首をかしげて声をかけた。

鞘香「……サー君?」

寅「……(サーパイン?)」

立見席から闘技場に視線を落としていた【闘神】右京山寅もサーパインの異変を感じ取っていた。

観客たちの声援が広がる闘技場の空を見上げるサーパイン。

負けられね。絶対に、負けられねぇよ。

サーパイン「俺は、必ず勝つッ!」

鞘香「(やっぱりいつもと違う…?)」

寅「チッ」

好ましくはないな。普段と異なる心持が良い面に作用するとは限らない。気合が空回りしねぇといいが……。

そうしていると対戦相手が登場してきた。

ゴールドプレジャーグループ【魎皇鬼】百目鬼雲山

雲山「悪いが、負けてやるつもりはない。散ってもらう。俺達の愛の前に。」

寅「(サーパイン、平常心を取り戻せ。その男は、本物だ。)」

サーパイン「……燃えるぜ!」

雲山「そうか。では、そのまま燃え尽きてくれ。」

人間とは、どうしようもない物体だ。彼は、そう考えるようになっていた。【パラリーガル】として生き人間の愚かな部分を眺めてきた表の部分【百目鬼流】頭首として生き暗部をになってきた裏の部分。

場合よっては殺しも手段とし、むしろ「殺し」とは「日常」。躊躇も慈悲も介在するはずがない……はずだった。

そんな時に出会ったのがゴールドプレジャーグループの倉吉理乃だった。

百目鬼雲山、愛を知る。

蜜月、というほどのものではないが二人で過ごす時間が増えていった。そしてある日のことだ……。

理乃「雲山。この間の話だけど。」

雲山「……ええ。理乃の言うことが正しいと思う。」

暗殺者は、裏社会の中でも特に深い闇にいる存在。殺しを続ける限り私は理乃さんと同じ場所には決して立てない。

倉吉理乃自体もやや裏側の存在ではある、だがそれでも暗殺者ほど深い闇ではない。

理乃「……」

雲山「決めたよ理乃。「暗殺拳」の【百目鬼流】は私が終わらせる。これからは、新しい百目鬼流を作っていくよ。理乃、今すぐ闘技仕合を組んでくれ。私が、お前を頂点に立たせてみせる。」

父である百目鬼雲水も裏の世界を歩んできたものの「暗殺拳」である【百目鬼流】を継がず独自の【百目鬼流】で掲げ十神将となった。

ならば……自分もやろうではないか。祖父の「暗殺拳」の【百目鬼流】そして父の「十神将」の【百目鬼流】を合わせ超えた自身の【真・百目鬼流】を……。

サーパイン「シャアアアアアアァァァァ!!」

雲山「やかましい人だ…」

司会解説席へと移った鞘香が選手の紹介を開始する。

鞘香『サーパイン選手はミャンマー出身。昭和の名闘技者として知られるパーパイン氏の実子にして一昨年、急逝した強豪闘技者ネウィンパイン氏の実の弟でもあります。日頃は九州にある「夜明けの村」で、国民として生活を営んでいるそうです。ちなみにミャンマーには性がないため、便宜上、村長と同じ鎧塚性を名乗っているとのことです。』

ジェリー『ところで鞘香SUN、サーパイン選手には、一回戦で披露しなかったSPECIALな技があるとか?』

鞘香は片手をグーにすると自分の額をコンコンッと打った。

鞘香『そうなんですジェリーさん!!!ラウェイ最大の必殺技それは…………頭突きです!!サーパイン選手は、過去17戦のうち8戦の決まり手が頭突き。さらにそのうち6戦が、カウンターの頭突きによる勝利です。』

各所で仕合を観戦しに来た闘技者たちがその言葉に納得した。

氷川「(…確かに、アイツの頭突きは洒落になんねえ。)」

初見「(至近距離での闘いでは相当な脅威になる。おいそれとは間合いに入れねえ。)」

寅「(至近距離戦なら有利だ。)」

【氷帝】の氷川涼
【浮雲】の初見泉
【闘神】の右京山寅

三名の闘技者が至近距離ならサーパインに分があると思いながらも、百目鬼雲山に目を向ける。

「「「(……もっとも、楽には勝たせてもらえ(ねぇ)ないだろうがな。)」」」
12/100ページ
スキ