ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー某病院:霊安室ー

二年前のこと……。

静かで薄暗い霊安室の簡素なベッドに横たわっているのは褐色の肌を持つ青年だ。多少目元や頬に打撲痣ができているものの至って穏やかに眠っているような表情だ。

その傍に立っているのはサーパインと鎧塚実光。

サーパイン「兄貴…」

実光「君達の亡くなった親父さんも、かつて闘技者をしておった。」

五年前になるか…君の兄、ネウィンパインがワシを訪ねてきた。闘技者になって、国の兄弟たちを養いたいと。

ネウィンパインは鬼神の如き強さで勝利を重ねていった。ワシが止めるのも聞かず、無謀なペースで仕合を組み続けた。

そして……最後の仕合の直後に倒れてそのまま……。

後で知ったよ。ネウィンパインの兄弟達が暮らす村が立ち退きを迫られていたことを。立ち退きを撤回するために、法外な金額を要求されていたことを。

サーパイン「……」

実光「大馬鹿者がッ……!なぜワシに頼らなんだ……!!」

小さな身体を震わせて唸るような声でそう語る鎧塚実光にサーパインが背を向けたまま口を開いた。

サーパイン「「戦士は施しを受けない」……兄貴の口癖だったよ。結局、村はなくなっちまった。…………ジイさん頼みがある。」

実光「……うむ。何でもいってくれ。」

サーパイン「それじゃあ……村を追われた連中と俺の兄弟たちをアンタの村に住まわせてくれ。」

実光「!!」

サーパイン「心配すんなよジイさん。頑丈さは、兄貴より俺が上だ。俺が、兄貴の跡を継ぐぜッッ!!」

時間は現在に戻り、前仕合の処理が済むのを確認すると鞘香がマイクに叫んだ。

鞘香『【吼える闘魂】鎧塚サーパイン入場!!!』

サーパイン「シャアアアアアアァァァァッ!!」

マイクの声よりもでかい声量で叫び声を上げながらサーパインが入場した。

鞘香『相変わらず声がデカいぞオオオオッ!!』

サーパイン「やるぜえぇぇぇぇっ!!」

鞘香はマイクを下げてこそっとサーパインに声をかけた。

鞘香「サー君、今日も元気いっぱいだね。」

サーパイン「当たり前だぜ鞘香アアアアアアッッッ!今日も必ずッッ!俺が勝アアアアアアつッッ!!!」

鞘香「サー君、トーさん(寅のこと)闘うのを楽しみにしてたもんね~私もこっそり応援してるね。」

サーパイン「……ああ。ありがとな鞘香。」

一昨日のこと願流島のホテル内をご機嫌に散歩していたサーパインの耳に聞きなれた声がとんできた。

「なんじゃと!?」

サーパイン「この声は、ジイさん?」

廊下の影からこそっと様子を見ると鎧塚実光が誰かと話している。

実光「……話が違うぞ。……約束したはずじゃ。主に協力すれば村には手を出さんと。」

サーパイン「!?」

実光の前に立っているのは東洋電力会長の速水勝正、そしてその背後には白いスーツの黒ロンゲとグラサンの男が居る。

速水「フフフ…仕方なかろう。ビジネスとは日毎秒毎に状況が変わる物。それに、これは行政側からの要望なのだよ。夜明けの村をとり壊し、跡地に「発電所建設を」とな。わかるだろう鎧塚?200平米㎞超の土地に住人はわずか400人弱。広大な土地を遊ばせている現状を行政が良しとするか?近日、土地収用の事業認定手続きが開始される。あくまで形式だけだがな。」

実光「……勝ちゃん…!そこまで外道に堕ちたか…!!……言え。「条件」はなんだ?」

ポケットから葉巻とライターを取りだし、火をつけるとふーーっと煙を吐きだし速水はいった。

速水「愚問だな。左ブロックを制せよ。それが、村を見逃す唯一絶対の条件だ。」

サーパイン「…………!!?」

夜明けの村が、なくなる?

実光と兄弟たちと畑を開拓し、米や野菜を収穫し、皮では釣りを、時には山でイノシシを狩り、四季を楽しみ、恵みに感謝して暮らしていた村。

『どうじゃサーパイン、村の暮らしにはなれたかの?』

『おうよジイさんッッ!!!兄弟たちもすっかりここが気にいったみたいだ!!!ここは良い村だなッッ!!なんていうか、こう……とにかく良いぜッッ!!』

『フッ…さよか…ま、好きなだけ暮らせばよかろう。どうせ土地はあまっとるでの。』
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