ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

「うわあああああああ!!!!」
「関林がやられたアッッ!!!」

春男「しッッッ…師匠ッッ!!」

鬼王山「どうしたオッサン!!?大した蹴りじゃねぇだろ!!!」

観客たちから悲鳴が上がる。控室で治療中の金剛も息を飲んだ。何が起こったのか理解しきれなかった……。

手術音だけが木霊するなか、口を開いたのは傍で見ていた柏だ。

柏「「あの技」は、ヤバい。」

金剛「え?」

通称【心臓抜き】

皮膚、筋肉を越え、肋骨の下を通り抜け、直接心臓を突く。強い衝撃を与える必要はない。

ほんのわずかな衝撃で心臓は動作を止め、確実な死を迎える。死体には傷を残さないことから、古代中国では暗殺に多用されたという。

凍夜「ふぅっ……。」

アンタが勘の良いひとでよかったよ。お陰で仕込みが役に立った。

全ての人間がまんまとハメられた。凍夜が一回戦から目突きを多用していた真の理由……残虐性ばかりに気を取られて気がつかなかった。

目突きというインパクトのある技を繰り返し使用し、深層心理にすりこむ。結果、無意識の内に目突きへの対処に注意がいく。

そして……胸部への緊張が僅かに緩む瞬間、【心臓抜き一蹴】

柏「「あの技」は、対象が力を抜いた瞬間を狙う奇襲技。単純だが理に適っている戦術だ。あの関林が一撃で沈む威力……。もし三回戦で使われていたら恐らく……」

金剛「俺も落ちてた、かもしれんな…」

闘技場ではレフリーがセキのもとへ駆けていく。

田城「関林!いけるか!!?」

凍夜「すぅーーはーー……よし。」

呼吸を整え耳元の血を拭う。

誰かさん達みたいに筋肉を貫いたり、削ぎ落したりするなんてことは無駄が多すぎる。俺は、闘いで非合理的なことは苦手なんだ。

しかし……関林さん、アンタは強かったよ。【心臓抜き】まで使わされるとはね。

そして、このダメージ…壊された耳は大会中は使い物にならないな。

勝敗は決した。セキに背を向けて歩きだそうとした瞬間、ユラッと背後で何かが動いた気配を捉えた。

春男「ッッ!!」
鬼王山「!!?」
鹿野「!?」
金剛「(どうして立てるんだよお前は!?)」

凍夜「……ッ!!!」

冗談だろう?……だが、それが精一杯だろ?もう動けないだろう!?

セキ「……」

立ちあがっただけ、それが限界……ではなかった、セキは一歩、また一歩と地面を踏み鳴らして近づいてくる。

良心の顔は知らない。物心ついた時には、祖母と二人暮らしだった。随分と悪さもしてきた。まさに狂犬だった失う物など何もなかった。

そんな俺を、プロレスが変えてくれた。

生涯の師。偉大な兄弟子。そして……こんな俺が師匠になっちまった。

ありがとう、プロレス。

俺はいつまでも、お前に夢中だ。

凍夜「……」

この感情は感服じゃない。「呆れ」だ。……わかったよ。気が済むまで付き合ってやるさ。

構えを取り直し凍夜は近づいてくるセキへと向かっていく。地面を力強く踏みこみ飛び膝蹴りのモーションに入った。

瞬間、セキはブッと口から真っ赤な霧を吐きだした。凍夜の顔面が血で染まり動きが停止した。そして上半身を引っ掴むと振り上げながら地面へと叩きつけた。

鞘香『ボディスラムウゥーーー!!!』

ジェリー『反撃のNOROSHIデース!!!』

凍夜「…………ッッ!!!」

いいね。いつ以来だろうか……戦士として闘いたくなったのは。いい、いい、使わせてもらおう。俺の持つ力のすべてを!!

ボディスラムを受けたがノータイムで立ちあがり構え直し、敵を捉えた…………のだが……。

「「「『『…………』』」」」

静まり返る闘技場、レフリーの田城が声をかけた……。

田城「せ…関林……お前……」

セキ「……」

立ち止まっているセキは目は開いているもののピクリとも動かない。演技ではない誰の目には明らかだった。

勝敗は決した。

構えていた凍夜も自然と腕が下がる。だが、次の瞬間、セキへと飛びかかったのだ。

春男「やめろ!!バカヤロオォッッ!!」

凍夜はセキの巨体に腕をまわすとそのまま地面に投げこかした。

「「「「!!!!」」」」

鞘香『こ……これは……裏投げ……!』

そして凍夜は仰向けに倒れたセキの上に乗り軽くホールドした。

凍夜「1……2……3。3カウント。勝負ありだ。言っただろう。「プロレスは嫌いじゃない」って。アンタの意気に免じて「流儀」に則ってあげましたよ。……俺なりのリスペクトってやつさ。」

レフリーが腕を振り上げて叫んだ。

田城「勝者!!結城・クリストファー・凍夜ァァァ!!!」
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