ｰ絶命闘技会ドーム:闘技場ｰ

セキの連続攻撃に押し退かされていく凍夜。モンゴリアンチョップから逆水平というシンプルながら理想的なコンボ攻撃だが、技の動作ひとつひとつはどうしても大振りになりがち。凍夜は逆水平が振るわれるタイミングで上半身を大きく下げてセキの下半身にタックルを決めた。

そのまま転がす……つもりだったがビクともしない。それどころかセキは凍夜の首に腕を回して捕えてきた。

セキ「おいおい。そりゃあ安直すぎるぜ。」

鬼王山「読まれてんだよ。バーカ。」

凍夜の頭部をフロント・ヘッド・ロックの要領で片脇に捕らえると、そのまま後ろに倒れこんで相手の頭部を打ちつけた。

【DDT】

岩美重工、ガンダイの両代表の表情が歪む。

とまり「(クッソ!!モロに受けやがった!!!)」

鹿野「(いや。肘を入れて(※)威力を分散させたのだ。気を付けろ関林!凍夜は冷静さを欠いていないぞ。)」

※掌をつくと、肩・肘の脱臼等のリスクが大きい。

ホールド状態で押さえつけているが凍夜が上半身が持ち上がっていく。

凍夜「ぐっ……はは…」

セキ「!!」

凍夜「やってくれますね……!けど、自分から不利な体勢になってくれるとはね!」

セキは逃すまいと首に回している腕に力を込めるが凍夜は器用に頭と上半身を振りずるりと引っこ抜いた。それでもなお、押さえつけようとしたが凍夜はセキの上に陣取っていく。

鞘香『ああーーーー!?一転して関林選手が窮地に立たされる!!左手を離してしまえばマウントポジションの完成だ!!!』

もうひと息で完全にマウントを取られてしまう次なる手段としては髪の毛を掴むぐらいかとセキの左手の動きに警戒していたがセキの左手は頭ではなくやや首の上後頭部側に手を回してきた。

瞬間、凍夜の動きが停止する。

後頭部に回された左手の親指が耳の中に刺しこまれたのだ。

セキ「「裏技」ってやつさ。教えてやるよ。「怖いプロレス」を。」

関林の右腕が伸びあがり大振りの平手が炸裂する。右から走る衝撃が固定され刺しこまれいる左指に駆け抜け空気の逃げ場がなくなった耳内の鼓膜が破裂した。

凍夜「オ゛オ゛ッ!!??」

これには流石の凍夜も声を上げて上半身を仰け反らした。

セキ「どうだい?俺の姿、ちゃんと視えてるかい?」

凍夜は大きく後ろに何度か飛び下がった。そして鼻を押さえて耳抜きの要領で空気を出すと右耳から血霧が吹きだす。

凍夜「ッ……(やってくれるなぁ)」

悠々と関林が立ちあがり近づいてくる。凍夜は視覚が封じられているものの聴力と異常なほどの空間把握能力により全てを捉えていた……。

だが、今は視覚代わりの聴力が潰されてしまった。こうなると聞こえてくる「情報」が遮断されてしまう。

キィィンッと耳鳴りに似た音と観客たちの声が邪魔(ノイズ)になっているが…………左耳で十分捕える。

間合いまで五歩……三……二…………鋭角で巨大な鞭を振るったようなローキックがセキの太ももを打ち据えた。バヂィッと豪快な破裂音。

セキ「ッッ!!?」

叫びをあげるのを食いしばるもその一撃でセキの太ももは赤黒く腫れあがる。

鬼王山「(野郎、まだ視えてやがる!)」

凍夜「フゥッ!」

誤差修正。位置情報を更新。よし、イケる。