ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【6】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

大型のモニターに映された仕合の様子にユリウスの雇い主である速水勝正は邪悪な笑みを浮かべた。

速水「愚かな。ただの怪力漢と侮ったか……「肉は知なり」。ユリウスは怪力だけの馬鹿ではない。筋力向上の為、スポーツ生理学、スポーツ医学、心理学、果ては物理学まで修めている。」

その知力と超肉体が合わされば、いかなる局面に対しても、即座に対応することが可能。

人類史上最強の筋力とそのスペックを最大限まで引きだす頭脳。ユリウスには如何なる技も通用せんぞ。

鞘香『こッッッ!!!これは苦しい状況だーーーっ!!!骨の軋む嫌な音が響いている!!金剛選手、地獄のベアハッグ逃れられるのか!?』

実況の通りユリウスに絞めつけられている金剛からはギリギリメシメシと人体から聞こえてはいけない音が響いている。

金剛「う、ウオオォォォッ!!?」

ここに来てまさかの反撃に金剛は悲鳴を上げながら何とか脱出しようと拳をユリウスにぶつける。しかし、腰も入らず手首から先だけで撃つパンチなどいくら金剛の力であっても威力は出ない。

ユリウス「……!?」

さらに力を込めて絞め潰しにかかったユリウスだが……。

なんだと?金剛が…縮んでいく?

【極撃】

ユリウスの腕の中で金剛が爆ぜた。【極撃】は「突き」だけの技ではなかった。威力こそは減衰するが身体の何処からでも発動することはできた。その結果ダメージにはつながらないにしても絶体絶命の万力のようなベアハッグを弾き飛ばしたのだ。

金剛「ブハアッッ!!」

拘束から解き放たれ金剛は大口を開けて酸素を肺へと供給する。

ユリウスの動きは速かった。金剛の腕を掴むと引っ張りこもうとする。しかし、金剛も負けずとその力を利用して凹んでいる脇腹へ拳を叩きこんだ。

一瞬、ユリウスの動きが停止するも即座に殴ったほうの腕も掴まれ両腕を大きく開かされるとヘッドソバットを顔面へと落とされ金剛の身体が大きく反りかえった。

さらにユリウスの攻撃は続いた。頭を引っ掴むとそのまま地面に叩きつけた。金剛の頭が半分ほど地面に埋まるが一気に引き抜くと、そのまま壁まで走っていきまたも顔面から叩きつけた。

当然、後頭部を掴んだまま力任せに金剛の頭を壁に押し付けながら走りだした。壁が横一線に抉れていく。人間擦り降ろしという凶行を満足するまでやり切ると地面に投げ捨てられ。

ユリウスは大きく飛びあがり金剛目掛け拳を落とす。そしてがむしゃらに両拳を振り上げて何度も何度も何度も何度も落とし、金剛の足の掴むと何度目になるか壁へと投げ飛ばした。子供がオモチャの人形を無茶苦茶に振り回しているかの如き残酷な行い…。

壁から崩れ落ちる金剛だがまだ意識はあるらしく顔をガードしながらなんとか立ちあがる。

それを見たユリウスは猛進した。もはや動いている限り、否、息がある限り金剛への攻撃を止めるつもりはないのだろう。全力のスピードでぶつかり金剛は吹き飛び壁へとめり込んでいく。

金剛の意識が飛びかける瞬間、いくつもの映像が脳裏に駆け巡った。柏が、マリアンが、匣が、梔が、摩耶が、そして悠が……。

『金剛、勝てよ。』

途切れかけた意識を取り戻し再び拳を握りしめた顔の半分の皮膚が削れ血まみれの顔面だが両目をカッと開いて前へと踏みこんだ。

【極…

力の限り暴れていたユリウスだったがギリギリでその極撃を完全に読み切り前蹴りで止めを刺した。

「「「「『『!?』』」」」」

観客、闘技者、司会進行、全ての時間が止まる。

ユリウスの足は壁へと突き刺さっている。外したのではない金剛のハイキックがユリウスの顔面を撃ったのだ。

脚の筋力は、腕力の3倍強。

奥の手「極撃」に注意を引きつけ、超至近距離からの蹴り。

ユリウス「お、っ……ごぉっ……!!」

常人ならば間違いなく首から上が引き千切れてていたことだろう。ユリウスだからこそ生きていた、意識が保たれていた。しかし……しかし、ユリウスをもってしても看過できるダメージでなかったのも事実。

金剛は蹴りはなった脚を降ろすと、トドメに逆脚でもう一度ハイキックを放った。反対側からの渾身の一撃。

勝敗を分けたのは、戦術の差。

世界最高、最重量、最大級の骨格と筋肉を持つ怪物が吹き飛び地面へと落ちた。

田城「ッッ……しょ、勝負ありッッ!!!勝者、金剛ッッ!!」
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