ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

金剛とユリウスはゆっくりと歩みでて再び並び立った。一瞬、睨み合うと次の瞬間には両巨雄の鉄拳が互いの顔面を打ち据えた。

単純に、巨大で硬い物体同士がぶつかり合う。そのまま止まることなくノーガードで殴り合いが始まった。重機と重機の正面衝突とも錯覚する轟音と衝撃波が二つの塊から放たれ続ける。

そんな異質な仕合内容を医務室のモニターで眺めていた茂吉ロビンソンの妹、エレナロビンソンは呆然と口をポカンと開けてふいに思った。

エレナ「……ッッ!!」

あ。これ、観たことある…昔、兄様とよく観た「アレ」。

この人達、KAIJUMOVIE(怪獣映画)みたい……。

人の域を超えた殴り合いが続く。手数は、金剛がリード。

しかし、堅い!

自身よりも巨大で、自身よりも硬く、自身よりも力の強い敵。どれか一つが勝っている敵と会いまみえることは数少ないながらがあった。しかし、そのすべてが上回っている敵との闘い、これは金剛にとって初めてのことだった。

ほぼ球体状に身体を固めて金剛の打撃を受け止め続けていたユリウスが蹴りを放ち返す。ただの前蹴りではあるが丸太どころか鉄柱サイズの足での一撃、それはもはや必殺なのだ。

咄嗟に腕でガードし、筋肉鎧(マッスルアーマー)で受け止めた。小鳥遊悠が使う【不壊】の完全上位級の技であるにも関わらず金剛の巨体は後ろに吹き飛びかけたが何とか踏みとどまるもバランスを崩した所にユリウスは追い打ちにハンマークラッシュ(両手を組んだ振り降ろし)。

これも両腕をクロスさせて直撃を阻止したのだが純粋に途轍もない【力】の落下に金剛は地面に叩きつけられた。床が砕けめり込むほどの衝撃。

仕合の現状を【滅堂の牙】加納アギトは冷静に分析していた。

骨格(フレーム)の差だ。筋力が互角ならば、優劣を分けるのは体格差。殊(こと)に骨格の大きさは、打たれ強さに直結する。……金剛が優劣を覆す方法は、ただ一つ。


地面に叩きつけられた金剛が上半身を起こし拳を放った。瞬間……今までの比ではない音が鳴った。否、音と言えるものではない一つの物体が完全に壊れたアポカリプティックサウンド。

「「「!!!」」」

アギト「持っていたか…。」

格上を倒しうる「牙」を

ユリウス「ゴボッ!!」

ユリウスの脇腹が大きくめり込み口から血を吹きだした。それは即ち……金剛を超える骨格と筋肉の鎧を貫いたのだ。

金剛「…参ったぜ。使っちまった。【極撃(きょくげき)】対「あのバカ(小鳥遊悠)」用の奥の手だったんだがな…」

例えるのならば……限界まで縮めたバネを、一気に解放するように、全身の筋肉を、「ある一点」に向けて収縮させていく。言うなれば「極」人体の中心へと力を集約し……一気に解き放つ。

その技の型は、伝統空手で使われるノーモーションの逆突きと酷似している。

これはかつて【悪魔の手】と呼ばれる男、小鳥遊柏が基本となる型を作り上げていた、しかし腕力という一点ならば金剛にも負けず劣らずの力を操れる柏だったが実戦には使えないと封印した技を、金剛に教え。小鳥遊梔のサポートと共に完成させた。

金剛はこの技を【極撃】と呼んだ。
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