ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

前仕合でかなりのダメージを負って闘技場ではなく控室のベッドの上で横になりモニターで仕合の様子を眺めていた摩耶が身体を起こした。

摩耶「ッ…!!」

西品治「おい、無理をするんじゃない。」

動くだけで痛みに顔を歪める摩耶、それを支えるように西品治明が腕を伸ばした。

摩耶「ありがと先輩。けど……悠君が痛ってて……ようやく本気になってきたみたいだから。」

アダム「ヘイ!いったい何者なんだ、あの野郎は?」

同室で同じように観戦していたアダム・ダッドリーが呆れたような驚愕したような顔で聞いてきた。

摩耶「そうだねぇ……もし、あの魏雷庵が最強の魔人だっていうのなら、悠君は最強の馬鹿だよ。あはは。」

鈴猫「悠、頑張って…!!」

ここだけではない、小鳥遊悠を知る皆は声援をかけていた。

左近「いやぁ、あれだけボコボコにされといてよっくまだ動けますねぇ。」

寅「ふん、あの黒目野郎がなんなのか知らねぇが……あの馬鹿は息がある限り何度でも立ちあがる野郎だ。」

吉音「悠ーーーー!いっけーーー!!」

詠美「悠君、あと少しよ!!」

城「いけえぇぇぇっ!!悠さアアアアアんッッッ!!」

絵利央「何をやっとるか雷庵ンンッ!!!」

迦楼羅「悠ーーーっ!!頑張れーーーーッッ!!」

会場の熱気も最高潮になるなか魔人は悠を睨む。

常に「強者」だった。何時如何なる場面でも「強者」として生きてきた雷庵。

彼にとって「最強」とは求めるものではなく。約束された称号であった。

事実、実力で雷庵に比肩する者は今日まで一人も現れなかった。

だが……

悠「コォォォッ、ヒュゥゥゥッ!」

既に【外し】を使えないほど消耗した身体。
魏雷庵。かつて一度たりともなかった危機である。

雷庵「フゥッ、ハァっ……くっ、クカカッ!!」

それでも尚、男は嗤った。

勢いのままに前へと踏みだし敵へと拳を振り放つ。未だに衰えを見せぬ鉄拳だが、悠は半歩前へ出ると同時に手首を捕えて引っ張りこみながらカウンターを雷庵の顔面に叩き返す。

【暴】に対する【武】

流麗な動きで反撃した悠だったが魔人は殴られても即座に上半身を振り戻してミドルキックを穿ち返してくる。

悠「ゴボッ!?」

まさかの反撃に直撃を許して悠は掴んでいた腕を離してしまった。

雷庵は悠の頭を両手で掴むと頭を振り降ろしてくる。そして大振りのヘッドソバットを三度悠の顔面に叩きこんだ。

もはやどこから出血しているのかわからない血をまき散らしつつ悠は尻餅をついた。そして雷庵も前倒れに膝を着く。

悠「ハッハッハッハッッ!」

雷庵「フーッフーッフーッ!」

どっちも立ち上がる気力もギリギリの中、先に動いたのはやはり暴君、雷庵。この期に及んで力押しで挑む。

へたり込んでいる悠目掛けて蹴りを放つも悠はエビのように跳ねてそれを避けて地面に突っ伏した。雷庵は何とか振りだした足で踏ん張るも機微が失われていた。しかし、それでもしつこく悠を敵へと向かっていく。

ポリシーなどという高尚なものではない。許せなかったのだ。己の膂力をもって思うがままにならない存在が。

その許せない存在が立ちあがる。もはや構えも取れずにヨロヨロと近づいてくる。雷庵も進む、同じような足取りではあるが拳を硬く握り殺意を込めた一撃を放つ。

悠「うっ、おぉっぉぉぉぉっ!」

雄叫びをあげ、絶死の一撃に自らぶつかりに行く。ギャギィンッ……おおよそ人体と人体がぶつかったとは思えぬ歪な音……。

魏一族は1400年にもわたる肉体改造を行ってきた戦闘民族、しかし、小鳥遊悠にも異常ともいえる硬度を誇る人体部位があった。

頭蓋骨だ。金属バットのフルスイングにも打ち勝つ頭蓋が魔人の拳を弾き返した。ここにきてまさかの返しに雷庵の体勢が大きく崩れる。すかさず悠は【鉄砕】を首へと打ち据えた。

雷庵「ギィッ!!?」

この一撃を待っていた。

度重なる攻撃によってダメージを負った頸部。時間にして0.14秒。雷庵の意識が途切れた。この瞬間に全てをかけた。

小鳥遊悠、初にして唯一の勝機!

両腕を大きく振るい雷庵を打ち上げる。狙うは「身体の支点」、続けざまに両手から鞭のように繰り出される打撃の嵐に魔人の身体は空に投げだされ、そこだけ重力が失われたかのように縦横無尽に空中で弾け続け最後に地面へと叩き落とした。

【小鳥遊流:四季ノ型・居合払い奈惰嶺(なだれ)】
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