ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー大江戸城麓・大広場ー

吉音「……」

悠「おい」

吉音「は、はい」

悠「従姉妹だっていうのに、かたや将軍候補で、かたや浪人暮らしってどういうことなんだよ。」

吉音「えっと……あの、それは…色々事情があって……またいつか話せたらいいかなと思ってて」

悠「そか。言いたくないことまでは聞かない主義だから別にいいけど。」

吉音「ごめんなさい」

悠「ただおれはお前がお嬢様だろうと浪人だろうと今さら態度とか変えないからな。そこまで器用じゃないし」

吉音「うん、あたしも悠とは今まで通りの付き合い方をしたいんだ。クラスメイトとして、用心棒と雇い主としてこれまでと同じように」

悠「(クラスメイトではないんだが…)それでいいんだな」

吉音「うん…」

悠「っか、お前、すごいお嬢様なんだろ?なのにどうしてお嬢様として暮らさないんだ。おれみたいな貧乏人から飯をたかって細々と生きてくことなんかないじゃないか」

吉音「あたし、みんなの中にいたいから」

悠「みんなの中?」

吉音「うん……高いところにいたら見えないことがたくさんあるんだ。あたしはこれまで見えなかったものをたくさん見たい」

悠「分かった。だが、用心棒の給料は上がらないからな?」

吉音「うん」

吉音「あ。ひとつだけお願いを聞いてほしいんだけど」

悠「何だよ。出来るお願いしか聞かないぞ」

吉音「二人でいるときは吉音って本当の名前で呼んで欲しいなって」

悠「あー?そんなことか。吉音。これでいいか?」

吉音「うん……ありがとう、悠」


二人から少し離れたところ。隠れるようにしてケータイで話している人物、逢岡想である。

想「はい、これまでと変わりなしです。はい、また連絡します。では失礼します。ふぅ……」

朱金「おい、逢岡!」

想「きゃああっ!?」

朱金「おいおい…そんなにびっくりするなよ、こっちの方が驚いちまうだろ」

想「と、遠山さん……」

朱金「奉行所に連絡かい?」

想「え、あ……はい。そうです」

朱金「お前さんはホントにいつも仕事熱心だなぁ。ちょっとは俺も見習わなきゃな」

想「いえ、そんな…」

朱金「それにしても今日はホントにおつかれさんだったな。」

想「遠山さんこそ」

朱金「この後、時間あるんだったらよ、今日のお疲れ会ってことで悠の店に茶でも飲みにいかないか。」

想「そうですね、それもいいかもしれません。」

朱金「よし、じゃ決まりだ。あいつらに声かけて小鳥遊堂にGO!おーい、悠」

悠「あー?」

朱金「今から茶飲みにいくぜ」

悠「待て待ておれ怪我人だぞ…。全身悲鳴あげてるんだぞ。」

朱金「あはは。嘘つけよ。」

ポン…

悠「っ!?」

吉音「わっ、悠すごい汗」

悠「あ…かね…さわ、るな。死ぬマジで死ぬ…。」
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