ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

「「「マッヤッ!!!!」」」
「「「マッヤッ!!!!」」」
「「「マッヤッ!!!!」」」
「「「マッヤッ!!!!」」」

興奮覚めやらぬ観客。闘技場の熱気は早くも最高潮を迎えていた。

そんな観客たちの声か響き渡る廊下で【処刑人】阿古谷清秋は蹴りの直撃を受けた右目にガーゼを貼りつけて傷の手当てが済んでから壁に背を預け胡坐をかいて床に座りこんでいた。

若桜生命社長の檜山瞬花はその傍で心配そうに佇んでいる。

阿古谷は先の仕合を思いだす。叩き伏せ、心も折った。それでも……あの男は立ち上がり、絶望的な状況から自分を打ち負かした…。

「貴方は強かった。」

阿古谷「!!」
瞬花「!!」

突然聞こえてきた声の方へ振り返ると其処には西品治明、アダム・ダッドリー、そして全身ボロボロで包帯まみれで息も絶え絶えの摩耶、それを抱きかかえている桜花鈴猫。

西品治「阿古谷さん、貴方の強さは誰もが疑わないだろう。パワー・スピード・テクニック、そして精神力。貴女は、全てにおいて摩耶を上回っていた。事実、敗者である貴女のダメージはごくごく軽微。一方、勝者の摩耶はご覧の通り重症だ。もしも貴方が、桧山社長の指示に従っていたら。もしも貴方が、最初から仕合を決めに来ていたら。もしも貴方が、殺人衝動に憑りつかれていなかったら。勝敗は逆だったでしょう。だが、摩耶は勝利した。それが結果でそれが全てだ。」

アダム「(ヒュー!いい性格してるぜ。嫌いじゃねぇけど。)」

ハッキリと啖呵を切った西品治。しかし、次に口を開いたのは鈴猫の腕の中にいる【黒天白夜】勝者の摩耶だった。

摩耶「阿古谷さん。……ありがとう。アンタと闘わなかったら、僕は大事なことを思い出せたよ。「闘いは怖い。」少しの油断、判断ミスで命を奪われる「戦場」だからこそ、その一瞬一瞬に全力を賭けて本気を出す。……鈴猫ちゃん、もっと近くにいってくれる。」

鈴猫「えっ……あ、うん。」

その言葉を聞いて鈴猫は阿古谷に近づいた。

摩耶「アンタと闘って死ぬかと思った。本気で怖いと思った……だけどさ、僕、またアンタと闘いたいよ。」

包帯をグルグルに巻き1ミリでも動かせば痛いはずの細い右腕を阿古谷に向けて差し伸ばした。

阿古谷「……行くぞ檜山。」

しかし、握手に応じることなく背を向けて歩きだした。一瞬、戸惑った顔になった檜山瞬花だが、何も言わずに阿古谷の後へと続いた。

摩耶「阿古谷さん…」

西品治「気にするな摩耶。全ての人間がわかり合えるわけじゃない。ああいう生き方しかできない人間もいる。」

鈴猫「あの二人、どうなるんでしょうか?」

西品治「明るい未来は待っていないだろうな。殺しの螺旋の中で、いつか最期を迎えるそれだけさ。」

アダム「けどよダンナ、あのGirlはアコヤを止めようとしてなかったかい?」

西品治「彼女は、阿古谷の身の安全を危惧していただけさ。殺人そのものを否定したわけじゃない。殺しに囚われた男と男に縋るしかない女。……哀れだな。」

摩耶「……僕は、あの人に感謝してるよ。あの人のお陰で、何かを掴めた気がするんだ。僕、もっと強くなれるよ。」


【黒天白夜】摩耶、三回戦進出
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