ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

瀕死寸前まで追い込まれていた摩耶は立ち上がると同時に距離を取った阿古谷目掛けて飛びかかった。

一気に間合いが詰まるが処刑人の反射神経は容易にそれに対応してカウンターで摩耶の顔面を殴りつけた。

直撃……したはずだが手応えが薄い。そう感じた次の瞬間、阿古谷は引っ張られていた。伸びきっている腕、手首のあたりを右手で掴まれつつ左腕を肘に押し付けられているのだ。

そのまま摩耶は上半身を大きく振った。
ビキィッと鋭い痛みが肘から稲妻のように走った。

阿古谷「ぐっ……小癪!!」

一瞬停止したものの力を込め直し、腕に絡みついている摩耶を振り払った。地面に叩きつけられる一瞬で阿古谷の腕から手を離し、二度大きく跳ねて距離を取った。

……アドレナリンで痛みが散っているのか?しかし解せん。腕を取る為、突きに当たってきた。しかし、手応えなく……そして、躊躇なく折ろうとしてきた。どちらも俺の知る摩耶の戦法ではない。

摩耶の中で何が変わった?

構えは取っているものの全身で息をして今にも倒れそうな小さな闘技者は再び猛進する。かなり低く滑りこむような突進だが阿古谷は当然対応して両肩を掴んで停止させた。だが、摩耶は地面を力強く踏みこむと頭をかち上げた。阿古谷の下顎を穿ち、体勢が崩れたところに前蹴りをぶちかました。

異常な反射神経をもってしても何故か防ぎ切れない連続攻撃。立ちあがって大楯の構えになるが摩耶は構うこと無く連撃を続ける。

……わかったよ悠君。

僕は勘違いをしていたんだ。

「いつか本気で闘い」……違うだろう!?負けたら「次」なんてないんだッ!!!!

突然の戦闘styleの変化に面食らっていた阿古谷だったが冷静さを取り戻し連撃を大盾で捌くとなぎ払う様に蹴りを放ち、ボディに直撃した摩耶は大きく吹き飛ぶ。

鞘香『効いたーー!!!折れたアバラに左ミドル!!』

アダム「BOY!!!」

西品治「ハッ、倒れない……」

直撃を受けたにもかかわらず摩耶は立ち踏ん張っている。

阿古谷「……」

…ふむ?今度は手応えはあった。……なぜ倒れない?やはり、この男なにかが変わった。少し様子をうかがうべきか。

摩耶「ハッハッ……ハッハッ……ハァ……ようやくわかったよ。ハァハァ……僕、闘うことが好きじゃなかったんだ。ハッハッ……僕、マゾじゃないからね。殴られるのも蹴られるのも大ッ嫌いだよ。ハァ……ハァハァ……僕が好きなのは、「闘うこと」じゃなかったんだ。僕は「勝つこと」が好きなんだ。」

阿古谷「……そうか。この期に及んで、「正義」に抗うか。もはや貴様の魂を救済する余地はないぞ。」

摩耶「正義だのなんだの…ハァハァ…うるせぇんだよ。…お前なんかに裁かれないし、裁かせない……善行も悪行も、僕の今までの行い、これからの行い……否定させない!なにひとつ誰にも奪わせない!!!勝つッ!勝ってみせるッッッ!!!」
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