ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

眼球狙いの蹴りを避けたことは良かったのだが、摩耶の身体は一瞬硬直してしまう。本当に僅かな硬直、常人ならばそのまま逃がしていたことだろう。しかし、目の前に立つ者は反射神経が異常……外した蹴り足を地面へと叩き落して踏みこんで前へと飛び出し摩耶の足を捕えたのだ。

鞘香『上体が浮いた摩耶選手、すかさず阿古谷選手がタックル!!!攻防は再びグラウンドへ移るか!?』

足を捕えられたまま摩耶は力に飲まれ押しだされていく。

摩耶「くっ!」

振り払うのは不可能と判断し、摩耶は阿古谷の後頭部や首に目掛け肘を落とし続ける。反射神経が異常であることもさながら、身体の硬さも異質と言っていい堅牢な男はビクともしない。

阿古谷「これより正義を執行する。」

ビタッと阿古谷の動きが止まる。しかし、次の瞬間捕えている摩耶の太ももに齧りついた。

摩耶「はっ……?」

鞘香『か、か、噛みついたアアアア!!??摩耶選手の大腿部から激しい出血だアアアアアッッ!!??』

大男が限界まで口を開き太ももに本気で齧りつく、その痛みは想像を絶するものだ。

摩耶「ア゛ア゛ア゛ッ!!」

鞘香『たまらず摩耶選手悲鳴を上げる!!』

しかし、この攻撃には観客たちも声を失っていた。

「な、なあ…阿古谷ってこんな闘い方だっけ?」

「お前、阿古谷戦は全仕合追っかけしてたよな?」

「……こんな阿古谷見たことねぇよ。」

闘技場での惨状にアダム・ダッドリーが声を上げて壁を殴りつけた。

アダム「FUCKッ!!!なんだあの野郎!?急に凶暴になりやがったぞ!!!」

西品治「なんだ!?一体何が起こった!?」

二人の背後で真っ青な顔色で地面にうなだれている瞬花がポツリポツリと話しだす。

瞬花「……阿古谷は…阿古谷は、「正義執行」と称して、「悪」と定めた人間に死刑を加えてきた。」

西品治「!?」

アダム「WHAT!?」

西品治「阿古谷は裏でそんなことを…」

アダム「「ダーティーハリー症候群」ってやつさ旦那。だからポリ公は嫌いなんだッ。」

全ては阿古谷の理想とする「悪の存在しない世界」を作る為。阿古谷の「活動」は順調だった。

だけど……悪と闘ううちに、阿古谷は徐々に変わっていった。憑りつかれてしまったんだ。

殺人の衝動に。

瞬花「それから阿古谷は闘技仕合で私に指示を仰ぐようになった。……殺人の衝動に飲み込まれない為に。」

アダム「Fuckッ……!お前は奴のブレーキだったってのか!?」

【善悪の彼岸】第146節…フリードリヒ・ニーチェ著

西品治「なんということだ……阿古谷清秋は、深淵に囚われてしまったんだ…」

闘技場ではさらなる惨事を迎えていた。

ぷちんっ…言う音がした。そこからブチッ、ブチチッーーーッと音を立てて摩耶の太ももの皮膚を肉を食いちぎったのだ。

摩耶「ああああああっっ!!」

鞘香『噛み千切ったアアア!!!!動脈を損傷したか出血が激しいッッ!!!』

阿古谷「グチャッグチャッグチャッグチャッ」

鞘香『うっ!!?あ、阿古谷選手……「肉片」を咀嚼して挑発している!?』

ジェリー『Upp…私、デビルリバースしちまいそうデース……』

鞘香『摩耶選手、精神ダメージも甚大か!?』
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