ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

闘技場内が息を飲む極限状態の中、西品治明は口調はいつも通りだが怒気を込めて言葉を発する。

西品治「棄権するんだ檜山さん。もはや君たちに選択の余地はない。」

檜山「……」

邪魔が入らぬように西品治の背後で仁王立ちしているアダム・ダッドリーは横目で仕合の様子を眺めつつ二人の動向を注意していた。

アダム「(キレてんなあニシホンジの旦那。けどよお、ちょっと甘すぎやしねえかい?)」

三角締めの体勢のまま吊り上げられた摩耶だったが、その小さな体躯を生かして一瞬で極めている手足を解き、阿古谷の背後へと回りこんだ。そしてへばりつくようなにおぶさる形で細い腕を蛇のように首へと絡めていき締め付けた。

チョークスリーパーは一見すると太い腕で力任せに絞めることで効果が出ると思われがちだが真の意味で締めるのならば「細い腕」の方が効果がある。理由は……密着率、太い腕で締めると隙間ができる。細い腕ならばより深く、より完全に絞めつけられる。それは即ち、より速く、より正確に動脈を潰せるということとなる。

鞘香『バックを取ったァーーーーッッッ!!!』

逆転に次ぐ逆転。

聞こえてくる歓声と解説に焦ったのか檜山が西品治に飛びかかる。

瞬花「返してっ!!」

しかし、闘技者でもなければ男でもなく小さな女性の檜山は簡単にアダムに腕を掴まれてしまう。

アダム「おっと。Yo!FuckinZASHIKIWARASHI、諦めなお嬢ちゃん。アンタのFuckingMachineはもう操作不能だぜ。」

瞬花「……まだ……まだ私はやれるよ。阿古谷……だから…だから……」

その時、西品治の手に渡った小型の無線機から声が飛んだ。

阿古谷「……檜山…」

「「「!!!」」」

瞬花「阿古谷ッッ!!!」

阿古谷「俺が一回戦後にいった台詞を覚えているか?」

摩耶「……?」

突然。阿古谷がブツブツと呟きだしたことに摩耶は絞める腕を緩めることはもちろんないが何を言っているのかと僅かに警戒する。

瞬花「一回戦……!?」

次はないぞ檜山。

阿古谷「檜山……消え失せろ。」

ハッキリとそう告げるとの絞めている摩耶の腕を両手で掴み握りこんだ。

摩耶「!?」

瞬間、摩耶の白い腕が真っ赤に染まった。スプリンクラーのように血飛沫が飛び散っていく。

鞘香『こッッッこれはーーーーッ!!??阿古谷選手の指が摩耶選手の腕にめり込んでいくッ!!!紅選手を彷彿とさせるさせる指の力です!!!』

摩耶「痛ゥゥゥッっ!!!」

これにはハッキリと声を上げて摩耶は阿古谷の背から飛び退いた。

鞘香『摩耶選手、たまらずエスケープ!!!』

大きく後ろに跳躍しながら着地しつつ潰されかけた手を動かす。

摩耶「(よし動く!腱はやられてない!)」

一安心したのも束の間、目の前に高速で何かが向かってきていた。それは足先、顔面への蹴りだ。摩耶は大きく身体を後ろに振って直撃を避けた。

しかし、質が……変わった。この男は、今、目を潰しに狙ってきた。
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