ｰ絶命闘技会ドーム:闘技場ｰ

広い闘技場全域を使って逃げ回りながら摩耶は何とか阿古谷を突き離そうとするも、一定の距離から引き剥がせない。

その様子を淡々と見つめる西品治、手に持った無線機から声が届いた。

『明君……やはりこれは……』

西品治「いや。まだ確証がない。」

アダム「YO旦那ッ!アンタもマヤに声援のひとつでも送ってやれよ!」

西品治「……ああ。どうやら「応援」が必要なようだ。」

大振りのリッパーが袈裟切りに摩耶を剃りにかかる。しかし、上半身を斜めに反らして紙一重で直撃こそ避けたが腕の皮膚一枚が裂けている。しかし、カウンターとばかりに裏拳に似た一撃を阿古谷の腕にぶつける。

阿古谷「……」

ダメージは無に等しいが苛立ちが募る。その阿古谷の耳に瞬花の声が飛んだ。

瞬花『阿古谷。すごいよその子。わずかずつだけど、反応速度が上がってきている。驚異の適応力だよ。』

下がった上半身が戻るタイミングを狙い阿古谷はアッパーで頭を穿とうとしたが摩耶は無理やり頭を振り抜き額が大きく避けるもやはり直撃を避けきった。こぼれ吹きだす血が左目に滴り落ちるも閉じることなく敵を睨んでいる。

鞘香『リッパー炸裂ウゥゥッ!!』

瞬花『だけど、これで終わりだよ。闘技者一の反射神経を持つ阿古谷。そして私の「能力」によくここまで食い下がったよ。そろそろ楽にしてあげて。』

阿古谷「承知」

開き気味だった手のひらを硬く握り今までのような振りぬく打撃ではなく当てて砕く、重い打撃に切り替えてぶつけてきた。

打撃の速度が増し重厚な一撃が着弾する。

摩耶「ぐっ……(きッ……決めに来たッッッ!!!)」

鉄の塊を何度も何度も投げつけられているのかと錯覚するほどの打撃の絨毯爆撃に摩耶は小さな身体を更に小さく縮めてガードを固める。人体に存在する急所にこそ当たりはしないが骨に内臓に衝撃が伝わり続ける。

鞘香『あー!!これは厳しい!!摩耶選手、亀になって耐えるしかない状況だ!!!』

摩耶「ぐぅぅっ……!」

打たれ続けながら地面を踏みしめて耐えながら、膝をわずかに落とす。

そのわずかな変化を瞬花は見逃さなかった。

瞬花『頃合いだ。行くよ阿古谷。』

地面が砕けるほどの踏みこみと共に阿古谷の剛腕が摩耶に放たれる。

トドメの一撃…………それは摩耶にとって待ちわびた勝機!!

ノーギで入場。打撃勝負。消極的な仕合運び。これらの全てがブラフ。

全てはこの一撃の為……黒状態(ブラックモード)発動!

摩耶は両腕の防御態勢を解いて大きく両腕を開きながら後ろに倒れ込んだ。阿古谷の腕を捕え両足を首に絡め絞める。

鞘香『さ……三角締めッーー!!』

末吉「まさか、今までの闘い方は…」

氷川「全部この為かよ!!」

鞘香『完全に虚を突かれたーーー!!!戦局は一転!!摩耶選手が優位に立った!!い、いやこれは……!!?』

阿古谷「ッ……!!」

絡まっている足の間に左腕が刺しこまれている。

鞘香『阿古谷選手、かろうじて締めを防いでいる!!』

摩耶「……!!」

嘘だろオイ……!?

僕の黒状態は相手の意識が攻撃だけに集中する瞬間に仕掛けるカウンター。0.1秒にも満たない一瞬。反応できる奴なんていなかったのに。このオッサン、どこまでヤバい反射神経してんだよ!!