ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

互いに攻撃が当たるか当たらないかという絶妙な距離に達すると摩耶の左拳が放たれた。しかし、阿古谷は大楯(右腕)でそれを反らし、左拳で伸びた腕を剃った。

一拍おいて摩耶の左腕に一筋の赤が走る。そこからプップッと赤い球が浮き上がったかと思うと一気に鮮血が吹きこぼれる。

鞘香『出たァーーーっ!!「リッパー」だーーー!!!ナックルで皮膚を割く阿古谷選手のリッパー!河野選手を苦しめた技を解禁!!阿古谷城の守備は万全だ!!!さあ摩耶選手、どう攻める!?』

摩耶「……」

出血した腕を一瞥してあと、すぐに腕を下げて、摩耶は地面を蹴って後ろに飛び退いていく。

鞘香『おっと!ここで再度距離をとった。摩耶選手どうしたのでしょう。いつものアグレッシブさがなりを潜めている。』

ジェリー『mmm…それだけ阿古谷選手を警戒しているのデショウ。』

阿古谷「……チッ」

小さく舌打ちをこぼして今度は阿古谷自ら前進していき距離を詰めていく。正面からの猛進にたいし上半身を後ろに下げて足の力だけの蹴りを阿古谷の膝にぶつけた。

鞘香『摩耶選手、ストッピングで接近を阻止!!だが、両者射程内に入った!!』

大久保「わざと受けたな。あのポリ、坊を誘っとるで。」

打つか、蹴るか、絞めるか、どう出るのかと思いきや摩耶は踏み止めている阿古谷の膝を踏み切り台にして後ろへと跳ね跳びどいた。

アダム「WHAT!?」

大久保「また逃げるんかい!?」

阿古谷「…………」

鞘香『な、なんと摩耶選手またまた距離をとった!場内にも困惑が広がっている!おっとここで仕合は3分が経過です。』

氷川「……こりゃあ泥仕合になるかもな。闘技仕合は時間無制限、消極的ファイトへの罰則もない。加えて、表格闘技よりはるかに広い闘技場だ。逃げようと思えば一日中だって逃げ切れるぜ。」

末吉「過去にこういう事例はなかったんですか?」

氷川「ねぇよ。雇用主が許さねえさ。」

企業の威信を背負った闘技者がしょっぱいことをすりゃあ、会社の信頼まで失墜しかねねえからな。

「頼むから闘ってくれー!!」
「どうした摩耶ー!?」

観客たちのヤジが飛び始めるも摩耶はリズムを崩すことなく距離を保ち阿古谷をとらえ続ける。

構えたままの阿古谷の耳に檜山瞬花の声が響いた。

瞬花『阿古谷。お待たせ摩耶の「解析」が完了したよ。』

阿古谷は誰にも聞こえない声で返事を返した。

阿古谷「……了解。決めるぞ、檜山。」

鞘香『……おや?阿古谷選手が構えを解いたぞ。』

前進気味の上半身、両腕は拳を解いてフリーハンド、そして下半身は膝を軽く折っていつでも走り出せるような構え。

ジェリー『こ、この構えは!?【滅堂の牙】加納アギト選手の構えとソックリデース!!!』

瞬花「(当然。この構えは加納アギとから着想を得たもの。)」

過去の可能の試合から情報を収集。阿古谷の体格、性格、戦法に合わせて改良を加えたもの。

いわば阿古谷オーダーメイドの構え。牙オリジナルの構えをより攻撃に特化した猛攻の型。

もう逃げられないよ。摩耶。
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