ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】
ー願流島:河川ー
武器を抑えたところ、悠の顔面に拳が迫りくる。しかし、慌てた様子なく自由の効く左腕でストレートを弾いた。
悠「…………吉岡。おれはここまで頼んだ覚えはないぜ?」
手にしていた槍を離し、ボクシングスタイルに構えた吉岡は小さく笑って片眼で悠を捉えていった。
吉岡「……小鳥遊様、申し訳ありません。私も少々滾ってまいりました。お付き合い願います。」
肩をすくめながら、脇に挟んでいる槍を地面へと落とした。それと同時に吉岡が大振りのフックのような打撃を仕掛けてくる。
悠はバックステップで弧を描く打撃を避け続けるが大振りのわりに隙が無く狙いが正確な打撃が頬を裂いてくる。
悠「(速えっ!!)」
吉岡。お前、トーナメントでも通用しそうだぜ。
左右から抉り裂く打撃はだんだんと速度が増していき振りから突きにシフトしてくる。ほぼ紙一重で突きのラッシュを避け続ける。
吉岡「はあぁぁっ!」
勢い、力強さ、狙い、どれをとっても理想的な一撃を放ってきた。
【小鳥遊流:夏喜ノ型・幽歩】
悠の顔面を捉え打ち抜いたはずだったが拳がすり抜けていく。瞬間、吉岡の側面から拳が伸びてきて寸前で停止した。
悠「まずは一本だ。これで終わりじゃねえよな?続きをやろうぜ。」
目の前に居た男がいつの間にか側面に回りこんでいた。
吉岡「…………いえ…お見事、私の負けです。」
悠「よく言うぜ。まだ全力じゃねえだろ。」
吉岡「……先ほどの攻防でよくわかりました。全力で挑んだとて、私は貴方に及ばないでしょう。それほど貴方の技のキレは凄まじかった。私の完敗です。」
悠「キレ…か…。」
吉岡「小鳥遊様?」
悠「……」
思った通り。技のキレが元に戻りつつある。……いや、尋常じゃねぇほどキレ過ぎている。まるで自分の身体じゃないみたいだ……昨日の「岩の件」といい、何が起こってんだ?
吉岡「しかし、解せません。これほどの実力であれば、如何に「牙」とて易々と勝てるとは思えません。」
悠「あ?」
吉岡「小鳥遊様、そして五代目の牙、加納アギト。両者と拳を交えた私は、少なくともそのように感じました。」
悠「お前、あの野郎と闘ったことがあるのか?」
吉岡「……我々「護衛者」がどのように選別されるのかご存知ですか?」
御前片原滅堂の指示の下、身寄りのない少年を集め、鍛え上げ、才質のある者だけを護衛者として登用するのが正規のルートですが、外部の人間が登用される例も少数ながら存在します。
私もそのうちのひとりです。
あの頃の私は、殺しを生業としておりました。己の力に溺れ酔う醜く矮小な人間でした。
そして、私は「牙」の座を賭け、加納アギトと立ち合いました。結果は、言うまでもないでしょう?
あの闘いで、私は左目の光を失いました。そしてもう一つ……
悠「もうひとつ?」
吉岡「……「牙」を求め「牙」を失う。皮肉な話です。私は可能に屈した。だが、貴方は再度、いえ何度でも加納に挑もうとしている。よくわかりました。私には、最初から闘技者になる資格などなかったのだと。小鳥遊様。……武運をお祈りいたします。」
武器を抑えたところ、悠の顔面に拳が迫りくる。しかし、慌てた様子なく自由の効く左腕でストレートを弾いた。
悠「…………吉岡。おれはここまで頼んだ覚えはないぜ?」
手にしていた槍を離し、ボクシングスタイルに構えた吉岡は小さく笑って片眼で悠を捉えていった。
吉岡「……小鳥遊様、申し訳ありません。私も少々滾ってまいりました。お付き合い願います。」
肩をすくめながら、脇に挟んでいる槍を地面へと落とした。それと同時に吉岡が大振りのフックのような打撃を仕掛けてくる。
悠はバックステップで弧を描く打撃を避け続けるが大振りのわりに隙が無く狙いが正確な打撃が頬を裂いてくる。
悠「(速えっ!!)」
吉岡。お前、トーナメントでも通用しそうだぜ。
左右から抉り裂く打撃はだんだんと速度が増していき振りから突きにシフトしてくる。ほぼ紙一重で突きのラッシュを避け続ける。
吉岡「はあぁぁっ!」
勢い、力強さ、狙い、どれをとっても理想的な一撃を放ってきた。
【小鳥遊流:夏喜ノ型・幽歩】
悠の顔面を捉え打ち抜いたはずだったが拳がすり抜けていく。瞬間、吉岡の側面から拳が伸びてきて寸前で停止した。
悠「まずは一本だ。これで終わりじゃねえよな?続きをやろうぜ。」
目の前に居た男がいつの間にか側面に回りこんでいた。
吉岡「…………いえ…お見事、私の負けです。」
悠「よく言うぜ。まだ全力じゃねえだろ。」
吉岡「……先ほどの攻防でよくわかりました。全力で挑んだとて、私は貴方に及ばないでしょう。それほど貴方の技のキレは凄まじかった。私の完敗です。」
悠「キレ…か…。」
吉岡「小鳥遊様?」
悠「……」
思った通り。技のキレが元に戻りつつある。……いや、尋常じゃねぇほどキレ過ぎている。まるで自分の身体じゃないみたいだ……昨日の「岩の件」といい、何が起こってんだ?
吉岡「しかし、解せません。これほどの実力であれば、如何に「牙」とて易々と勝てるとは思えません。」
悠「あ?」
吉岡「小鳥遊様、そして五代目の牙、加納アギト。両者と拳を交えた私は、少なくともそのように感じました。」
悠「お前、あの野郎と闘ったことがあるのか?」
吉岡「……我々「護衛者」がどのように選別されるのかご存知ですか?」
御前片原滅堂の指示の下、身寄りのない少年を集め、鍛え上げ、才質のある者だけを護衛者として登用するのが正規のルートですが、外部の人間が登用される例も少数ながら存在します。
私もそのうちのひとりです。
あの頃の私は、殺しを生業としておりました。己の力に溺れ酔う醜く矮小な人間でした。
そして、私は「牙」の座を賭け、加納アギトと立ち合いました。結果は、言うまでもないでしょう?
あの闘いで、私は左目の光を失いました。そしてもう一つ……
悠「もうひとつ?」
吉岡「……「牙」を求め「牙」を失う。皮肉な話です。私は可能に屈した。だが、貴方は再度、いえ何度でも加納に挑もうとしている。よくわかりました。私には、最初から闘技者になる資格などなかったのだと。小鳥遊様。……武運をお祈りいたします。」