ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー願流島:河川ー

死の森のやや中ほどに流れる大きな河川。澄み切った水の流れは穏やかで川魚が悠々と泳ぎ、木々から流れてくる風と太陽の光が身体も心もリフレッシュさせてくれる。

吉音と迦楼羅とカルラはキャッキャッと追いかけっこをしている。その様子を岸部に備え付けられたベンチに身体を預けた久秀と詠美と心美が肩を並べている。

久秀「……どいつもこいつも元気だことねぇ。」

詠美「本当ね。それにしても今がこんなに穏やかだと、ここが闘技場だということを忘れてしまいそうになるわ。」

久秀「いいんじゃないかしら、今のうちに英気を養ってない明日はどう転がるかわからないのだから。」

詠美「……明日、どうなるのかしら。」

久秀「さぁね……だけど、久秀としては勝ってもらわなきゃ大損なのよねぇ。」

詠美「大損、ね。闘技者……悠の心配はないのかしら?」

久秀「アレは心配するだけ無駄よ。それより心配なのは……あの小娘なのよねぇ。」

視線の先には水中用のゴーグルをかけた城厘が水の中に潜ろうとしているところだ。

城「よーし。もう一回潜ってきますよー。」

英「……」

ドボンと水に潜る側を浮き輪をつけた英はじめがまるで死体のようにぷかぷかと浮かんで流れていっている。

城「……(綺麗な水だな~。プールかとはぜんぜん違う。これは魚釣りも期待できそ……)」

やや深みのところに酸素ボンベをつけた褐色肌のマッチョガイと坊主頭ででっぷりした男が銛で魚を突いている。

「「……!!」」

城「不審者ーーーっ!!」

咄嗟に水から頭を出して叫ぶ城に串田凛が声をかけた。

串田「どうしたッスか!?」

城「ふ、不審者!水中に不審者が!!」

叫びを聞いて迦楼羅がバシャッと潜ったがすぐに水中から出てきていった。

迦楼羅「別に変な奴はいないぞ?」

城「ええ!?おっかしいなぁ……なにか見間違えたのかなぁ……」

こそこそと木の方へふたつの影が移動している。それは【アラブの旋風】ハサドと【メディスンマン】蕪木浩二だ。

ハサド「あ……危なかった……!」

蕪木「まさかここまで人が入ってくるとは…!」

ハサド「晩飯は確保できた。退散するぞカブラギ!」

蕪木「もうっ!貴方がたまには魚が食べたいなんて言うから。」

戦利品(獲った魚)をもって二人の潜伏者たちは退散した。



死の森ではいくつか水辺のポイントがある。その中で広さはないが滝が流れ深い泉になっている場所。

大きめのボストンバッグを持った吉岡が水面を見つめている。ブクブクと泡が立つ水中から真っ黒い塊が飛び出した。

悠「ブハッ!」

水に濡れて海藻みたいになった長髪を振りながら小鳥遊悠が呼吸を荒げて頭を出した。

吉岡「8分41秒。記録更新でございます。」

悠「ハッハッハッハッハッハッ……ハァっ……よっしゃ。」

呼吸を整え終わると再び水の中に潜った。

吉岡「……(水中での運動は、身体の負担が少なく負傷中のリハビリに最適だという。…………しかしこれは……)」

水中で悠は拳を振るい続けている。それは決して緩やかなものではなく無呼吸シャドーだ。

水中の抵抗を利用した無酸素運動。

全身の筋肉と心肺機能を高める小鳥遊悠独自の鍛錬法である。
64/100ページ
スキ