ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー願流島内:死の森ー

本来ならば夜の闇に覆われ静かなはずの森の中からビキィッ、ビキィッと打撃音がこだまする。

【阿修羅】小鳥遊悠がフウゥゥッと息を吐いて構えた拳をゆっくりと下す。目の前にそびえたっている巨大な岩にクレーターが何個もできている。

『お前は弱い』

……へっ。ざまあねえぜ……奴の挑発に挑発をし返して奴の蹴りを取ってひっくり返してやろうとしたが、砂漠だけで精一杯……結局、何もできなかった。……笑うしかねぇぜ。

おれは……おれの目的は何なんだったかな。アギトの奴に一泡吹かせること?桐生刹那をぶちのめすこと?大会に優勝すること?……わからねぇ。なんにしても、こんな状態じゃ、到底……

「おいおい。落ち着けよ悠。そんな力んでちゃあ、ろくに実力を出せねえぞ。そんな時はアレをやってみろよ。まだ覚えてるだろ?」

悠の背後に現れたのは自分そっくりの男、正確に言えば自分が似ているのだが……それは若かりし頃の小鳥遊弥一(故人)である。

悠「……おいおい、ついには起きてても幻が出てくるようになってきやがった。…………アレか。そういえばしばらくやってねえな。……仕方ねえな。やってやるからさっさと消えやがれ。」

弥一「おう、やってみろ!!」

【小鳥遊流無ノ型:空(くう)】

小鳥遊流 無ノ型 空

正中線、とりわけ鳩尾から丹田にかけて意識を集中させる呼吸法。

腹圧を高め、体内の空気を一気に放出する。空手の息吹、または中国拳法の内攻に類似している。小鳥遊流(正確には小鳥遊弥一流)においては主に精神の統一、並びに体内機能の調整に用いられる。

すると、ある「記憶」がフラッシュバックする。

見慣れた年寄り姿の小鳥遊弥一とガキの自分が闘っている記憶。

それはまるで記憶にない記憶。半ば無意識のうちに、記憶に導かれるように、小鳥遊悠は構えをとっていた。

わずかにくるっていた重心。足の角度。拳の位置を修正。

そして……撃!!

目の前の岩に放たれた一撃、今までの比ではない音を立てて打ち砕き頂点までカチ割れたのだ。

悠「……なっ……なんじゃこりゃあ……!?」

打ち放った自分自身が驚き、声を漏らす。それに答えるように暗闇の中からヌゥッと弥一の幻影が現れる。

弥一「金剛ノ型を「攻撃」に応用した技だ。」

悠「金剛ノ型を攻撃に応用……。」

弥一「良い感じじゃねぇか。どうやら、ようやく夜見にかけられた封禁が解けかかってるみてえだな。悠、全てを取り戻せ。力の全てを。その時が、お前の最期だ。」

悠「最期ってどうい……」

すでに幻影は消えていてあたりには闇だけが広がっていた。


それぞれの思惑……それぞれの選択……島の夜は更けていく。
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