ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー大江戸城麓・大広場ー


両雄の肉体。痛みのうえに重ねられる痛み。疲労のうえに重ねられる疲労。幾層にも幾層にも幾層にも幾層にも…。

ミシミシと音を立てて押し返されていく俺の拳。どうする。どうしたら勝てる。尊敬する。よくここまで鍛え上げた。お前凄い顔だぜ。そんな顔のお前初めて見る。初めて会ったときも、店の裏で喧嘩(や)った時も、お前はそんな面みせなかった。知ってるか右京山。知ってるのかい寅?あんた今…笑ってるぜ右京山寅。

「お前今、笑ってるぜ…小鳥遊悠。」

幻聴か?俺は右京山がそういった気がした。刹那、俺の中で何かが破裂した。もう蝕みきったと思っていた翠龍剄……エアークッションが発動する。更なる肉体に毒を与えてくれた。
拳に力が加わる、拳に重みが戻る、押し曲げられていた肘が伸びる。ミシミシと俺からも右京山からも歪で狂おしい音が洩れだしメギリッ!た。

「ぐっ…おあぁ…ぁ。」

寅の拳が盛大な音を立てて手首から曲がる。勝機…だ。俺は悲鳴をあげる両の腕をあげて、肘を奴の肩に突き立て、右足を垂直に蹴りあげ顎を貫いた。

「っ……ぁ……」

一瞬直立不動だった奴はにたりと笑う。そして、ゆっくりと血を吐き出しながら仰向け倒れた。獣の最後をを見届けておれもその場に座り込んだ。

「はぁはぁはぁはぁはぁ…百目鬼の鬼牙と…はぁはぁ、九頭はぁはぁ…竜の昇龍の極み…併せ技だ。立つんじゃねぇぞ。」

百目鬼式絶技・鬼牙(オーガ)、鬼が牙を突き立てるように両肘を振り下ろす。下打の技。それに併せた昇龍の極みは零距離の蹴り。つまりは昇打の技。鬼に潰され龍に貫かれる豪華絢爛な大技となった。その代償は決して安くはない。おれの身体は機能停止寸前だった。まだ、やることがあるのに、おれは完全に気を失ってる右京山を担いで新の姿をさがす。
どーでもいいが、コイツ重たい…。ヤバイ足とかがめっちゃミキミギいってる。

「どうだ!えらそうなことをいっていたわりには防戦一方で手も足もでんじゃないか!」

おれの目に飛び込んできたのは連続で打ち込んでくる豪俊の剣を受ける新の姿だった。豪俊の言葉だけではない。確かにおれの目から見ても押されているように見える。まぁ、半分は腫れて見えてないんだけど。

「どうした、スピードでもかわせないのか」

力で勝てなくても手数や変化で勝機を掴むのが体格差のある相手との戦い方のセオリーだ。まぁ、今のさっきまでタコ殴りにされてたおれのいえる台詞じゃありませんけどね。

「うぅん…」

受ける新の表情も険しい。体格のいい豪俊の渾身の剣をああも大量に浴びせかけられていては体力の消費も半端ないはずだ。このままだと新が負けてしまう。
立ってるだけがやっとのおれが相手になるわけないが、一応声をかけた。
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