ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

【滅堂の牙】最強にして絶対王者。その男が今完全な一撃を喰らい吹き飛ばされた。それをVIPルームから眺めていた片原滅堂は静かに見降ろしていた。

滅堂「……」

強い!あのアギトが反応に窮するということは……打・投・極・絞の「繋ぎ目」が殆どないことの証左。

派手な技など必要とせぬ。「基本技術の圧倒的鍛錬」こそ大久保直也、最大の武器ということか…………。

ムジテレビ会長の熱海が小さく笑みを浮かべてうなずいた。

熱海「……(大久保君)」

『熊?ライオン?そんなもん闘いませんよ?そういうもんはリアクション芸人の領域でしょ?格闘家のやることちゃいますやん?熊に勝てんくても別にええんですよ。格闘家(俺ら)に必要なんは「人間の倒し方」だけですから。闘技仕合ではそのへんをビチッと証明してみせますわ。』

私の目に狂いはなかった。勝ってください。大久保君。


蹴り飛ばされたアギトは地に伏せ、大久保は腕を組んだまま動かない。その様子に声を荒げたのは【氷帝】氷川涼だった。選手登場口から大久保に叫ぶ。

氷川「何やってんだ!?休むな大久保!!!仕合はまだ止まってねぇぞ!!相手は化物の親だまだ!!!どんだけボコっても油断できねぇぞ!!!大久保!?」

ちゃうねん氷川。油断しとるわけやないねん。最後に撃ったサッカーボールキック。あの技那、一回対戦相手を死なせかけてから封印しとったんよ。

さっきの一撃……あの時と同じで、蹴りこんだんやけどな……。

大久保「…………やっぱりな。蹴った感触が無いからおかしいと思ったんや。」

今の今まで倒れていたアギトがフウッと立ちあがった。大久保を背にした、その表情は笑顔。ただ普通の笑顔ではない、歯をむき出しに血走った眼、悍ましい木彫りの面を貼りつけたような顔をしている。

金剛「……」

久秀「……人の貌じゃないわね。」

大久保「コラコラ。何を笑うことがあんねん。モニターで丸見えやぞ。ほな、もう一丁いこか?」

……アレを食らって立ちあがれるちゅうことは……やっぱし受け流しとったか。インパクトの瞬間に全身を弛緩させて、衝撃を散らしたってところやな。

つまの「俺の攻撃に対応しつつある」ってことや。

本気を出した俺に対応してきた奴なんて、今まで誰一人居らんかったってのに……はっ!めっちゃおもろいやん!こんな相手、滅多に闘えんで。

構えを取って備える大久保に対し、アギトは振り返ると同時に間合いを詰めてきた。

速ッッッ!!

備えていたはずの大久保は一瞬気圧された。それでも組ませるわけにはいかない、と動こうとしたが大久保の腕がアギトに捕まれたのだ。

なっ……コイツッッ……俺の動きを…!?

腕を引っ張りこまれ逆側から拳が飛んできた。間一髪で掴まれた腕を引っこ抜き、掌でガードする。アギトは止まらずに今までより速度と威力を増した拳の連射を浴びせかけてきた。ガードを固める大久保の巨体がズルズルと下がっていく。

だが、大久保は自分のペースを取り戻す。タイミングをしっかりと見定め、ここぞというところで【避即組】ストレートを避けタックルで組みつきにかかる。…………が、アギトはソレに対応し大久保のテンプル(こめかみ)が穿たれた。

曇天……傾く視界……大久保の記憶は、ここで途切れている。

崩れ落ちていく大久保にアギトは身体を掴み吊り上げて地面に叩きつけて馬乗りになった。

関林「(フロントスープレックス!!!)」

摩耶「(意趣返しじゃん!?)」

トドメとばかりに拳を振り上げたアギトだったがピタッと動きが止まる。

鞘香『……え…………?』

ジェリー『KIBAが突然FREEZE…?』

アギト「……大久保直也。心より感謝しよう。またひとつ、俺は強くなった。お前のおかげだ。服部。止めるタイミングが遅いぞ。」

大久保にかぶさっていたアギトは立ち退くと乱れた髪を戻しながら、その場から離れだした。

チーター服部「!?」

アギト「…運んでやれ。」

チーター服部「た……担架!担架持ってこい!!」

鞘香『け……決着!?!?決着だアアアーーーーッッッ!!!総合格闘技の絶対王者が!!【格闘王】大久保直也が一瞬で轟沈!!表裏対決を制したのは、【滅堂の牙】加納アギトだアアアアアアッッッッ!!』
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