ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

会場は今までで一番の盛り上がりを見せていた。アニマルラウンドガールたちが「第十六仕合」のプレートを掲げて司会進行の片原鞘香がマイクに声を張った。

鞘香『さあ!さあ!!さあッッッ!!!いよいよこの瞬間がやってまいりましたッッッッ!!!!一回戦最終仕合、まもなくスタートですッッ!!!』

観客たちは一斉に足元を力強く踏みしめてコールする。

「牙(きーば)!」
「「牙(きーば)!!」」
「「「牙(きーば)!!!」」」

前仕合が終わってシャワー室で汗を流していた【闘神】の右京山寅の動きが止まった。

寅「これは……」

会場が震えている…

選手登場口で松永工業社長の松永久秀に小鳥遊製薬闘技者【蔵王権現】の金剛が並び立ち、その隣で城の従姉、城蘭が肉まんを黙々と食べている。

久秀「……圧倒的ね。」

金剛「ああ。会場の誰もが【牙】の勝利を確信している。一回戦進出を果たした猛者たちの力を目の当たりにしてなお、この熱狂。これはもはや「信仰」だ。」

蘭「もぐもぐ」

久秀「……対戦相手は完全にアウェー。勝負が始まる前から不利なわけだからね。」

金剛「……」

【滅堂の牙】最強の闘技者と呼ばれる怪物。……その「牙」をへし折ってやりてぇ。

久秀「ところで、蘭さん……だったわよね?貴女はなにを?」

蘭「もぐもぐ……ごくんっ。うちの会社は負けちゃったから小鳥遊製薬さんの下につくことにしたの。だから、秘書がわりに金剛についててあげてるのよ。」

金剛「アンタが迷子になるから見といてくれって柏に頼まれただけなんだが…。」

どこか呑気な雰囲気になりかけていたが不意に背後から聞こえた声に空気がピンッと張り詰めた。

「堪忍やで~金剛はん。【牙】の首は俺が獲ってまうさかいな~」

金剛「……大久保直也か。」

久秀「(この闘気……!さっきまでの大久保と歯別人みたい!)」

金剛「…ひとつ忠告してやる。【牙】を人間と思うな。アレは、「強大な暴力の災害」だ。」

大久保「……ほおう。つまり「怪獣」みたいなもんやな。めっちゃおもしろいやん。ほな、「怪獣退治」といきまひょか。」

【格闘王】大久保直也、出陣


その「衝撃発言」は、あるドキュメンタリー番組の中で飛び出した。

この時点の大久保直也は、世界最大の総合格闘技団体「アルティメット・ファイト」との契約を終えたばかりだった。

『練習を終え、ジムを後にする大久保、車内で、大久保が取材陣に語りだした。』

大久保『いや~……なんというかね…必死な奴が多いでしょ?言い訳バッカリしよる奴。「日本人はハングリー精神がないから弱い」とか「筋肉の質が買い黒人より劣る」とか「身体が小さい」とか。「日本人は外国人に勝たれへん」みたいなこと言う奴ぎょーさんいますやろ?「いやいやちょっと待て」と。「俺はフツーに、外国人も倒しとるからな」ちゅう話ですわ。「筋肉が~」「体格が~」なんて言うてる連中はですよ、結局、外人コンプレックスをこじらせとるだけちゃいますのん?陸上の室淵さん、僕も仲ようしてもろうてますけど。あの人かて、外国人相手に結果残してはるでしょ?日本人でも何人でもね、勝つ奴は普通~に勝つんですわ。まあ、何が言いたいかっちゅうと……「何も生み出せへん奴は黙って見とけ」っちゅー話ですわ。……これいうたらアカン奴ですか?』

番組放送後、大久保の挑発的ともとれる発言は世間をにぎわせた。

だが、大久保はそんな逆風なども
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