ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:医療室前廊下ー

仕合が終わり、担架で運ばれた金田末吉は全身打撲と特に顔面へ入った痛打で意識は未だ戻っていない。しかしながら命に別状はないので手当てが済むと医療室は満員の為、廊下で寝かされていた。

側にはタバコを咥えた氷川が座りこんでいて。顔のパーツがよく似ているが兄妹ではない松永工業の秘書、串田凛も心配そうに立っていた。

氷川「……俺さ仕合前、コイツにいったんだ。「棄権しろ」って。」

見ちまったんだよ。金田(コイツ)が持っていたバッグの中身……まるで鎮静剤の見本市だったぜ。ブロック注射まで用意してやがった。

串田「そこまで…」

氷川「ハッキリ言って俺は超強え。そんな超強え俺からコイツは、闘技者の座を勝ち取ったんだ。」

だが、あの闘いで、金田自身、相当なダーメジを負っていたんだ。攻撃した俺ですら気付かない微々たるダメージの分散。人並みの体力しかない金田には、それが限界だったんだ。

途中から攻撃が当たらなくなった理由も今ならわかる。金田は「分析」をしていたんだ。

俺の攻撃を「予測」し、事前に安全圏に移動する。頭に血が上っていた俺にはまるで見抜けなかったよ。

だが逆に言えば、「分析が終わるまで相手の攻撃を耐え続けるしか術がねぇ」どう考えてもトーナメント向きの闘い方じゃねえ。

俺は止めたんだよ。そんな身体で闘ったら死ぬかもしれねえって。だけどコイツは……

末吉『アハハ。嫌だなあ氷川さん。私はあの氷川涼を倒した男ですよ?……大丈夫。必ず勝ってきます。』

氷川「俺が女ならキスしてやりてえよ。お前…最ッ高に恰好いいぜ。」


選手控室近くの廊下では城厘が義伊國屋書店の会長、大屋健に恐る恐る声をかけた。

城「ケンさん……金田さん、残念でしたね……」

大屋「…………う~ん……ま、仕方ないね。寅相手によく闘ったよ。」

城「……やけにあっさりしてますね。」

大屋「いや~?残念は残念だけど……とりあえず「最低限の目標」は果たせたからね。」

城「目的?」

大屋「スポーツの国際大会が「国力誇示」に利用されるのと同じさ。こういう大会は出場するだけで会社の力をアピールすることができるんだよね。社力誇示ってとこかな」

城「た……確かに……参加費の50億円をポンッと出せるだけでも相当ですよね。」

大屋「事実、島に到着してから新規の取引が4件決まった。50億の出費を軽々穴埋めできたよ。」

城「ええっ!?」

大屋「…………ただ、優勝を狙ってなかったといえば嘘になるかな。我が社の歴代最強闘技者氷川。その氷川を破った金田。……あの二人にいい夢を見させてもらったよ。…………俺は、アイツらがうらやましかったのかもな。打算に縛られた商人(俺)とは真逆の、ただ純粋に強さを求める闘技者(アイツら)が……なに、アイツらには若さがある。これから何度でも挑戦できるさ。厘ちゃん、君もね。」

城「……ケンさん。大丈夫ですよ、ケンさんだってまだまだやれますよ!」

大屋「……ああ。そうだな。」
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