ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

【拳闘】VS【古武術】

金田の紅人流は、戦場での戦闘を前提に作られた【介者剣術(※)】

※:甲冑を着た状態での戦闘を想定した剣術。

当然、徒手の技術も甲冑組み討ちを想定したものである。

すなわち……鎧を着た相手を投げる、足をかける、などバランスを崩した後、得物で仕留める。

「いかに早く相手を組み伏し、止めを刺すか」に主眼が置かれており、当身(打撃)はごくごく限られた状況でしか使用されない。


一方のボクシングは、素手での攻防に特化したいわば【拳術】。

紀元前4000年古代エジプトよりその存在を確認できる。二つの拳のみを武器とする殴り合う技術の集大成。

「対・素手戦闘」に特化されてきた技術。素手の攻防が技術体系のひとつに過ぎない紅人流と比した場合、その熟練度は雲泥の差である。

もし、両者が素手素肌で闘えば、ボクシング側の勝利は明白。

だが……金田には【先読み】がある。

超一流の騎士は数百手もの先の展開を読む。その秘密は、即座に最善手を導き出す、尾状核の働き。

肉体・技術で勝てないなら、【思考】で勝つ。金田が目指した戦法は、【詰将棋】。

金田は、寅のデータを徹底研究し、グローブを外した際の拳速を予測。イメージトレーニングを重ねてきた。

末吉「(私が予測したのは「全力の貴方」だ。……手は尽くした。あとは微修正をするだけ。)」

…わかっているさ。貴方は、私とは別次元の強さを持っている。本気を出した貴方の攻撃。一発でも貰えば敗北は確定だ。……最高じゃないか。これこそ私が求めていたもの。

いざ……尋常にッ……勝負っ!!!!


右京山寅と金田末吉が同時に前進する。

二人の影が重なるほど近づいた瞬間、先手に出たのは金田だった。肘を立てて寅の胸元に飛びこんでいくがワンステップで側面へと回りこんだ。そして、抉り切るようなフックを末吉の頭に放ったが頬を紙一重で避けた。頬が裂けて血を散らすも冷静に次の手に出ていた。

親指を立てた拳が寅の目を狙って伸びてくる。当然、バックステップでそれを避けた……が、身体が留まった。足、金田は寅の足を踏み止めたのだ。そこを矢次の追撃とばかりに二本指の目突きを放った。だが、その急所攻撃は届かない。パウリングで叩き落とされ、寅の反撃に移った。

射貫くような右ストレートからの左アッパー金田は全身を使ってそれを何とか回避し続ける。脳が焼きつけそうなほどの思考を超回転させ、寅の動きを先読みする。

導きだされイメージされた動きは……【右フック】【左フック】【右ストレート】

刹那、現実でもその通りの動きで寅が攻めてきた。

ビュッ、ブォッ、一発、一発が即死級の威力の拳が金田の身体スレスレを抜けていく。そして、三撃目のストレートをえびぞりに避けた。そのまま地面に倒れていく。当然、勢いに負けたわけではない。しっかりと受け身を取り、寅の足を取りにかかった。しかし、寅も振り落としてくる。それも捕えようと両腕を構えた。

ドゴォッ!

「「「「「!!!?」」」」」

鞘香『ッ~~~~、きッッッ……決まったアアアアアアッッーーーーーッッッ!!!』

チーター服部「それまで!!!」

鞘香『勝負を制したのは……ボクシング世界王者…右京山寅ーーーーーッッ!!』

足を絡め、腕を獲ることもできた。しかし、それでもなお……本気で拳を握った【闘神】は力づくで押し通ったのだ。

寅「……」

金田末吉。約束は果たしたぜ。

横っ面に叩きこまれた拳の下で金田は呟いた。

末吉「…………十手…………詰みか…………もう……少……し……いけると…………思っ……」

そこで金田末吉は意識を手放した。

寅「…わずか十手での決着。俺の圧勝は揺るぎない事実だ。……だが、裏を返せば、お前は、本気を出した俺に十手まで食い下がった。力・速度・技……全てがお前より上の俺に対して、だ。良い闘いだった。またな、強敵(とも)よ。」

右京山寅は一瞬だけ笑顔を見せて金田に小さく呟くと、背を向けて歩きだした。

第十五仕合

【闘神】右京山寅二回戦進出

【大物喰い】金田末吉一回戦敗退
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