ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【2】

ー大江戸城麓・大広場ー

「ふぅ…ふぅ…」

立ち上がったのはいいが鬼状態と翠龍剄の双発動に身体の芯がちぎれそうだった。ここの「喧嘩」はすでに俺の限界を超えている。もう折れて朽ちようとしている。関節エアークッションの利点は肉体の限界超えれること、だが同時に毒に蝕まれる。肉体は限界を超えれても身体は耐えきれない。エアーが破裂するたびにクッションを失い身体は軋む。筋肉は引きちぎれる。時間がない。俺は前に踏み出す。右京山も同じように踏み出してくる。

互いに一歩分の間合いで止まりに睨みあう。先に口を開いたのは俺だった。

「何がボクサーだ。キックボクサーじゃねぇか。嘘つきやろう」

「ふん。嘘つきはテメェだろ。その異常な身体に、妙な技……なにが腑抜けだ。」

「腑抜けだっーの!」

「黙れ…。もういい加減、決着つけようぜ。小鳥遊悠!」

「上等だ…。右京山寅!」

秋葉原闘路ランキング1位
小鳥遊悠
Style:覚醒の極み
VS
超実戦派ファイター
右京山寅
Style:開放のキックボクシング



次の瞬間、俺の横面に右京山の足が右京山の横面に俺の足がぶち当たった。零距離同時同撃のハイキック。吹き飛びそうになるのを歯を食い縛り地面を踏みしめて耐えた。右京山も倒れない。これで終わりになんかなれないのだ。こんなんで終われる喧嘩じゃない。

「ハラハラさせやがる」

「キックボクサーが蹴りで負けるか」

声にならない声で俺と右京山は唸った。蹴りあいの次はつかみ合いになった。手と手なんかじゃない相手の頭を両手で押さえ込むつかみ合いだ。左膝を奴の横腹に連打した。対抗するように奴も一発蹴れば一発返してくる。しかも狙いは折れたあばら骨の部分。

「このっ!」

「オラッ!来いよ!悠!」

二発、三発、四発、ひっつかみ合ったままの膝連打勝負に先に折れたのは俺のほうだった。手の力が抜けたのを右京山は見逃さなかった。腰を一段深く落として俺の頭を引き込み顔面に膝を打ってきた。潰れる鼻に走る激痛、涙か汗かはな血かヨダレか…その全部が混ざった液体が顔を濡らして前が見えない。無理やり腕で目を拭うと、目の前に迫る寅の拳。俺もがむらしゃらに拳を打ち返した。

「うううぅぅおおおぉぉ!!」

「うおおおらああぁあぁ!!」

拳と拳の一本勝負。筋肉がねじきれてもいい。ここが俺の超全開(ガチガチ)だ。
不意に世界から音が消えた。どうやら、来たらしい。極限までの集中力……超全開でいける世界。そこにはいつもアイツがいる俺がずっと追いかけていた最高の俺。もう少し、もう少しで追い付けそうなんだよ。けどまだ……2m届かない。
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