ｰ絶命闘技会ドーム:闘技場ｰ

腹を打たれて金田は極めていた右腕を解いて寅から距離を取った。一連の攻防に観客たちは叫び声をあげた。

「おおおッ!!!今のは惜しかったぜ!!?」
「関節に持ちこめばボクサーの寅は不利だぞ!!!」
「いけーーー!!!金田やっちまえー!!!」

会場の盛り上がりに反して廊下で観戦している氷川涼は小さく舌打ちをした。

氷川「チッ……(どこ見てやがる素人がッッッ!!)」

……どうするんだよ金田。あの野郎、サブミッションの対策も完璧だぜ!後手に回ってちゃ勝機はねえぞ!!?

次に動いたのは寅の方からだった。ステップで間合いを詰めて拳の速射砲を浴びせかける。ジャブとは思えない重さの連打を両腕を縦てガードをするが、鋭い一発がガードの隙間を掻い潜り金田の顎の先を打った。

末吉「あっ……」

寅「シィッ!!」

脳が揺れガードが下がり体勢が崩れる金田の顔面に渾身のストレートが襲いかかる。

こッッッ……このタイミングだ。

確実に顔面を打ち据えたはずだったのだが頬を削られていくものの直撃を避けて伸びてきた寅の腕を両手で掴んだのだ。

末吉「…………はい捕まえた。」

土壇場での起死回生を見て氷川涼は目を見開く。

氷川「アレだ!」

一見クリーンヒットした打撃も、その実……金田はほんの僅かに打点をずらして凌いでいる。すなわちそれは、相手の攻撃を捕え始めたということ。

寅「てめぇ…」

金田はしっかりと両手に力を込めて上半身を大きく振りぬいて一本背負いの要領で寅を投げた。身体が大きく弧を描いて背中から地面に叩きつけられる。

【紅人流:天地返し】

投げを成功させ、今だ押さえている腕をへし折りにかかる金田だが衝撃が顔面を襲った。

何が起こったのか後ろに吹き飛ばされながら敵を見ると地面に横たわるながらも右腕を軸に上半身を支え、右足は自然な体勢で伸ばし、左足は地面を蹴るという体勢で殴り飛ばしてきたのだ。

末吉「ッ～～……」

なっ……あんな不安定な体勢から!?ボクシングの試合からは得られないデータ。……序盤で見られてよかった。

右京山寅はワンモーションで立ちあがると即座に金田に向かっていった。空を切るようなジャブの速射砲。金田は再びガードを固めて受け止める。

「またフラッシュだ!」
「やっぱり糞速ええええッッッ!!」

寅「……(ポイントをずらしている。俺の打撃は見えてねぇはずだが…?)」

ガードでしのぎ切ると攻撃終わりのわずかな隙に末吉は拳を放ってきた。

末吉「ヤアッ!」

しかし、拳の打ち合いではどう考えても寅の方が何枚も上手だ。上半身を反らして容易にパンチを避けてカウンターのストレートを浴びせ返した。

末吉「ぎっ……」

横頬を打たれ顔が歪み血をまき散らすも意識は保っている。これはつまり、カウンターにも対処してきたのだ。

寅「……面白れぇ。」

それが寅のスイッチとなった。今までは「片腕」でしか仕掛けなかった攻撃が「両腕」で始まる。金田末吉という肉体の全部位を狙って両拳のラッシュが放たれだした。ドドドドドッ爆撃のような音とともに滅多打ちになる。

末吉「(耐えろ!!今は耐えるんだ!)」

亀のように身体の面積を限りなく小さくしてガードを固めて受け続ける末吉だったが、踏ん張っていた足が衝撃に押されて滑ってしまう。

体勢が崩れたところを当然、凶獣は逃しはしない。下段から抉りこむような強烈な一撃が末吉の腹を打ち抜いた。