ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

私は金田家の次男として生まれた。兄弟は兄がひとり、姉が三人。

昔から身体は強くなかった。物心つく前に大病を患って、二回死にかけた。小学校を上がるまでに、四階手術をした。

特別に珍しくもないただの虚弱体質。

だけど、私には人と違うことがひとつあった。

それは……「強さ」への渇望。

末吉「さあ。私はいつでもいいですよ。」

袴姿の金田末吉の声に右京山寅はかぶっていた白い上着を脱ぎ棄てた鍛え込まれた裸体に金の糸で猛る虎が刺繍されたボクサーパンツだ。


廊下では闘技者を送りだした義伊國屋書店の会長の大屋健がパイプを咥えて煙を吐いていた。

城「へえ、パイプなんてやるんですね。」

大屋「城ちゃん…」

松永工業第二秘書(使いパシリ)城凛が声をかけたのだ。

城「いよいよ金田さんの仕合ですね。……今回は敵同士ですけど、この大会が終わったらまた遊びましょうよ。結果はどうあれ。……それじゃあ、失礼します。」

一礼してその場から離れようとした城だが、大屋は声をかけて止めた。

大屋「……待ちなよ城ちゃん。」

城「え?」

大屋「何、悠長なこと言ってんの?とりあえずちょっと話につきあってよ。」

そういってスーツの胸を開くと内ポケットに酒瓶とジュースの缶がしまわれている。

城「ケンさん…!やっぱり変わってなかったんですね!」

大屋「ああ、東電のこと?確かにあの時、速水会長に協力を強要されたけどね。というかありゃ脅迫だよ。だけど俺、苦手なんだよね。誰かの下につくのってさ。」

城「ケンさん!」

大屋「なあに。速水が闘技会会長にならない限り俺に報復はできないさ。これでも俺、結構権力あるからね。つまり。俺が優勝しちゃえばいいんだよね。」

差し出されたジュースの缶を受け取り城は笑う。

城「ははっ。ケンさんらしいや。」

大屋「そんじゃまあ、金田の初戦突破を祈って……」

「「乾杯!」」


鞘香『さあ、まもなく仕合開始!拳闘の神に金田末吉が挑む!!!』

寅「……」

右京山寅は鋭い眼つきで金田を眺めた。耳、拳、胸元……ひと言で言うなら「凡骨」。

俺にとってのボクシングは「闘争」。
不純物が介在する余地のない「戦場」。

この大会はどうだ?物真似野郎。図体だけのウドの大木。武器に頼る弱者。どいつもこいつも色物ばかり。

……この大会は「見世物(ショー)」だ。戦士の闘う場所じゃねぇ。

そしてコイツ……この場に立つ資格すらない、圧倒的凡骨。

末吉「いや~楽しみですねぇ。」

……擬態でもない。なんでこんな奴が闘技者になとは……大会のレベルも知れたもんだな。

まあいい。世話になったラルマーの為、俺の目的の為……立ちふさがる敵は、叩きつぶすのみ。

レフリーのチーター服部が両雄の間に立つ。

チーター服部「両者いいな!!?準備いいなッッ!!??始めェッッ!!!」

鞘香『さあ始まりました第十五仕合!ボクシング統一王者寅選手、ヒットマンスタイルに構えた!一方金田選手、両掌を寅選手に向けて構える!空手でいう【前羽の構え】に酷似した型です。』
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