ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ータイ王国:王宮ー

広大なタイの中でひときわ強大な面積で豪奢な宮殿が存在する。その宮殿の主の会見できる一室では何百という使いが左右に並び、最奥では本物の金で形作られ、煌びやかな宝石があしらわれた椅子に若者が腰かけ、一段下がった床に跪いた者たちに声をかけた。

「よくぞ参った。商いは順調のようだな。イイダ。」

頭をあげたのは八頭貿易の社長、飯田正は傅いたまま返事を返した。

飯田「恐れ入ります。私どものタイ王国への進出成功は、陛下の庇護あってのもの。この御恩は生涯…」

王座に鎮座する男が飯田の挨拶を遮った。

「前置きは良い。お前は何の打算もなく余に面会を求める男ではあるまい?お前のような男は嫌いではない。望みを申してみよ。」

つややかな黒髪に美しい褐色の身体を持つ若き男はラルマー13世、タイ王国財政界の実質的支配者である。

飯田「……さすが陛下、お話が分かる。5か月後に開催される闘技絶命トーナメント。我が八頭貿易も参戦することになりました。つきましては、「陛下の剣」をお借りしたく存じます。」

ラルマー「ほう?余の剣とな?」

飯田「はい。こちらの男……右京山寅を我が闘技者として出場させるつもりなのですが。闘技会まで、この地で鍛錬をさせていただきたい。」

飯田の背後で跪いていた右京山寅が立ちあがって一礼した。ついでに付き添いの島左近も同じように一礼する。

ラルマー「クックックッ。つまりは世の力で闘技者を宛がえと申すか。……見返りは何だ?」

飯田「……私が闘技会会長となれば、八頭貿易はますますの発展を遂げましょう。その暁には、陛下にも更なる利益をお約束できる。」

ラルマー「……つまり、「優勝せねば見返りはない」ということか。どこまでも食えん男よの。まぁ、野心溢れる男が余は好きだ。して、ウキョウヤマと申したな、お前の意気込みを聞こうか?ああ、お前の喋りやすい本心を聞かせよ。」

寅「……俺は正直、闘技会の王だとかアンタの繁栄とかは興味がねぇ。強い奴と闘いたいし、なにより闘技会にはブッ倒したい奴が出る。その為には……たとえ、万の軍勢が相手だろうと。必ず打ち倒してやる。」



仕合の準備が整い片原鞘香が選手入場の紹介を始めた。

鞘香『いよいよこの男が闘いの舞台に上がる!!おそらくは、今大会一番のビックネーム!!ボクシング界の革命児!!!四大団体を制覇した史上最強ボクサーの入場です!!身長179センチ体重63キロ。闘技試合初参戦!!八頭貿易、右京山寅ーーーーーッッ!!!』

【闘神】右京山寅

闘技場の盛り上がりに【格闘王】の大久保直也が立見席で突っ込んだ。

大久保「ったくなんやねん!俺かてそこそこビッグネームやっちゅうねん!って、一人ツッコしてもうたわ。紅は帰ってこーへんし、金田は仕合やし、氷川もどっかに消えてしまうし。……しゃあない、俺も仕合の準備しとこか……」

対戦相手側の選手登場口に続く廊下で氷川涼が最後の確認をしていた。

氷川「……どうしても行くんだな?」

前に立つ金田末吉は振り返らずに答えた。

末吉「はい。ご心配なく。…私は大丈夫ですから。」

鞘香『対戦闘技者入場!!豪華客船闘技号で人知れず行われた死闘。【氷帝】氷室涼を下し、闘技者の座を得た男。その実力は本物!新進気鋭下克上ファイターの登場だッッッ!身長170センチ体重73キロ。闘技仕合初参戦ッッッ!!!義伊國屋書店金田末吉イイイイィィィッ!!!』

末吉「いやあどうもどうも」

【大物喰い】金田末吉

氷川「……馬鹿野郎が。」

…………氷川さん貴方は勘違いしている。

私は、勝算のない闘いはしない主義なんですよ。
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