ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

会長の片原滅堂から停止の令は届かず。そのまま続行となった。もともとスピードでは英が勝っていたのもあり、そこに手にした……否、手から出した武器によって坂東が防戦に回りだした。

容易に肉を裂き貫く骨刀が縦横無尽に振りぬかれる。

……やはりそうだったか。骨折時の英君の反応。そしてこの仕掛け……英君……君は、痛みを感じていないんだろう?

坂東の予想通り英はじめは痛覚が存在しない。痛覚の伝導路である視床下部(ししょうかぶ)。

英は術式によって伝導機能を「制限」していた。脳内麻薬物質によって痛覚を遮断、または変質させる闘技者たちとも異なる……痛覚の完全なるシャットアウト。

痛みも感じず凶器を持つ死の医師ドクターが大きく飛びあがり切りかかった。しかし、坂東はグニィッと上半身を後ろに傾けて斬撃を避けた。そして横っ腹目掛け巨拳を振りぬいた。

綺麗なクロスカウンターが決まる形で英の左腕もろともあばら骨が砕けた。モロに攻撃を受けてゴボッと血を吹きだしながらも死の医師は笑っている。

英はじめは、殺さなければ倒せない。

坂東「……!(まったく…なんて男だ。)」

拳がめり込んだ状態であるのにもかかわらず英の右腕が大きく振るわれる。するとプップッと坂東の肩から胸にかけて血がにじみ出した次の瞬間、噴水のように吹きだした。

鞘香『だッッッ!大出血ゥーーーーッッッ!!!!動脈を傷つけたかーーーー!!??』

英「フフフ…勘弁したまえ。「同類」に出会えて私も昂っているんだ。もはや勝敗などどうでもいいのだが、この昂りは癖になりそうだよ。坂東君。私のために死んでくれないか?」

内部から突き出たことによって両手からは血を流し、さらに片方の手の指はへし折れ千切れかけ腕の骨とアバラにヒビか入って口からも鮮血がこぼれているのにも関わらず死の医師は平然と立っている。

坂東は……攻めあぐねていた。無論、英の切り札たる「骨刀」のためである。

骨刀分を合わせても、リーチはいまだ坂東に分がある。だが、相手は刃物。一つ判断を誤れば、死あるのみ。

坂東は死を恐れてはいない…だが、この場において死を迎えることは彼にとって不本意なことだった。

迷いは、躊躇となって現れる。

坂東の躊躇を、英は見逃さなかった。

骨刀を構えつつ前へと走りだし「踵」で地面を蹴った。瞬間、ドゴムッ!と爆音と共に超速の飛び蹴りが坂東の顎を穿った。

坂東「……!!」

この威力。それにあの「爆発音」……踵に高圧ガスを仕込んでいたのか…まったく……SFの世界じゃないか……。

首が千切れていてもおかしくないほどの蹴りだが、超軟体体質の坂東はグラッと身体が揺れたものの踏みとどまっていた。

しかし、頭を前へと戻した瞬間、顔面に鋭い熱に似た痛みが走って斜め一線の傷が走り血をこぼす。
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