ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

坂東の腕や胸に500円玉サイズの凹みができている。出血こそはないもののくぼもは戻らない。

坂東「……理に適っている。体格に劣る君が、私を倒すのに有効な手段だよ。」

英「「手段」?フフフ…その通りだ。私にとって「武」とは……「手段」にすぎない。」

螳螂拳のような構えでうすら笑いを浮かべる医師に死刑囚は両手で掴みかかった。

坂東「ふんっ!」

巨腕が×の字に振られるが英は素早くしゃがみながら側面へと回りこんだ。

英「私の「目的」は、君を解剖することだよ。」

ピピピッと突きの連射を受けるとその部分がクレータのように凹む。

ジェリー『OHッッ!見事なHit&AWAY!』

鞘香『さながら弁慶と牛若丸です!英選手が坂東選手を翻弄する!』

坂東「……」

やれやれ…小さいだけにすばしっこい。やりづらいなあ……。

今度は下段から抉り上げるような大振りを仕掛けるも英はスライディングですり抜けつつ、坂東の足に数発突きを入れていく。

鞘香『また決まったーーー!!英選手の点穴攻撃ッッ!!』

ジェリー『キレキレなMOVEデースッッ!!!』

坂東「やはりやりづらい」

攻撃をまともに受けながらも死刑囚は何ともないように英の方へと向き直って両手を突き向ける。構えというよりはとにかくぶつける、という意思の表れ。

さて……どうしたものか。普通の人間なら激痛で闘うどころではないはずだが……分厚い筋肉が、突き込みを妨げているのか…?

実に、興味深いッ。

何としても君を解剖したい!可能な限り無傷なままで!!

英はがむしゃらで力任せの振りぬきを避けつつ、坂東の周りを右往左往に移動し続ける。そして狙いを足に集中し硬直した瞬間、背後に回りこんだ。

狙いは…亜門(首の経穴)!跳躍すると渾身の突きを首の刺しこんだ!

【霊枢檎拿術:亜門】

英「フフフ…二度と意識は戻らない。これでゆっくり解剖できる。…………あれ?」

着地した英の右指がおかしな方向折れ……というより、千切れかけて、血を吹きだしている。

坂東「第二指及び第三指解放骨折。それ、常人なら転げまわる痛みだよ。どうやら君も普通ではないようだ。私も【異常】の部類に入る人間でね。さて…異常者同士優劣をつけてみるかい?」

全身凹みだらけの死刑囚がコキッコキッと首の骨を鳴らしながら振り返る。急所を突かれたはずだが平然と動いている。

ふむ…?これは予想外。確かに頸椎を破壊したはずだが……頸椎は人体有数の急所。筋肉を鍛えたところで守り切れる部位ではない。

…………導きだされる答えは一つ。

英「なんということだ。坂東君。君は……常人離れした「関節の可動域」を持っているね?」

人体には約260もの関節が存在する。

そして、それぞれに「可動範囲」がある。力を加えられ可動範囲の限界を超えた瞬間、結合部分はあっさり壊れてしまう。

私が突いた経穴は亜門。この辺りの部位の可動範囲は、伸展(後屈)約50度。

私の一撃で神経を絶ち、破壊したはずだった。

本来ならば。

亜門を突いた瞬間、君は後頭骨と頸椎で私の指を挟みへし折った。もっともその瞬間を見ることはかなわなかったが……。
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