ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

右京山寅から大久保直也へと変貌したことに流石の初見泉も目を丸くした。

口調や雰囲気まで変わった!?

窈「フフッ。どや?驚いたやろ?せっかくやし俺の「正体」を教えてやるわ。私は「演出家(プロデューサー)」だ。表と……裏のね。」

裏社会には、「演出家」と呼ばれる人種が実在する。全くの他人に成りきり、詐欺などの犯罪に手を染める者たちである。

熟練の「演出家」ともなると対象の個人情報をあらゆる角度から調べ上げ、近しい人間ですら見破るのは困難なほどの「演出」をするという。

初見「(そうか…コイツ「演出家」か。聞いたことがある。「演出家」の中には荒事専門の武闘派がいると。その武闘派ってのがこの野郎か……)」

窈「私の成る力は、今、お見せした通りだ。私は、一度見た人間の動きを100%トレースできる。この意味がわかるかい?これまで仕合を行った22人の闘技者達……そして表格闘技出身の大久保直也。大江戸学園の【闘神】右京山寅。計24人の戦闘スタイルを私はマスターした。撃てば寅。組めば関林。搦め手では悠。理解したかい?君が闘う相手は、「小鳥遊窈」ではない。24人の闘技者たちの「合成獣(キメラ)」だ。義武社長には感謝しているよ。仕合順が後になるほどトレースできる闘技者は増える。今の私は、トーナメント開始前より遥かに強くなった。トーナメントが進行するごとに私は強くなる。確信しているよ。三回戦までに私は【滅堂の牙】を超える、とね。」

初見「…………姿が変わって見えるほどの演出力。大したもんだぜ。……で?それがどうした?泥棒猫(コピーキャット)が狸の皮算用かよ。洒落にもなりゃしねえぜ。構えろよ三下。他人様の力を存分に使いな。」

小鳥遊窈は、二つの嘘をついた。

ひとつ、窈がトレースできるのは対象の「動きと技」のみ。魏一族の外しや悠の鬼状態、紅のスカーレットエッジのような「身体能力」は模倣できない。

また、技を完璧にトレースしても、その威力は窈の身体能力に準ずる。

ふたつ、窈のトレースは、一動作(連携)につき完全コピーに平均2時間を要する。現時点で、窈がトレースした22人の闘技者達の動きはその殆どが実戦に投入できるレベルには達していない。

先ほど窈がトレースを披露した右京山寅と大久保直也。

「資料」がたやすく手に入る表格闘家の二人の動きを窈はトーナメント前、「闘技号乗船中」からトレースしていた。

トーナメントまでの時間が限られている中、全ての動きをトレースすることはかなわなかったが(右京山寅(80%)大久保直也(60%))十分だった。初見に、他の闘技者に、観客に、「窈は、一度見た動きを瞬時に奪うことができる」と錯覚させるためには。

窈のトレースの秘密は、雇用主である義武すらも知らない。

全てを欺き全てを演じる。窈は、今まさにトーナメントの大舞台で「絶対強者」を演じていた。

窈の作戦は功を奏した。

初見の目には小鳥遊窈という男が、「実態以上の怪物」として映し出されていた。

初見「(一度見た、動きをすべて使える相手か…)」

一回戦からアギト級ってとこかい?嫌になるぜ……コイツがマジで瞬時に動きをコピーできるなら、仕合中に俺の動きを盗まれる可能性もある。

さっきの動きを見る限り、コイツの言うことはハッタリじゃねぇ。……どうしたもんか。

窈「(…「疑念」は「警戒」を。「警戒」は「躊躇」を生む。「実体なき怪物」にせいぜい恐怖することだ。)」

主要闘技者のトレースを終え、「怪物が実態と化す」のは二回戦以降。それまでは、これまで奪ってきた48人の武術家の技だけで我慢しておこう。私は更に強くなる。君たちの動きを、血肉としてね。

Dブロックレフリーのチーター服部、体格が良く髪をひっつめ小さなポニテの男がふたりの間に立って叫んだ。

チーター服部「準備はいいな!?構えてッ!!」

【演の極み「映し」】

窈「…行くぜ初見。You.REMY STEPPING-STONEFOR GLORY.(俺の栄光の踏み石になりな)」

小鳥遊窈の姿が大柄な黒人の姿に変貌する。

あの構えは……気道館空手アンドリュー・フィリォ。

初見「……故人までコピーできるのかよ「成り切り野郎」。」

…こりゃあ、出し惜しみする余裕なさそうだぜ。物真似芸人に手こずってる場合じゃねえ!俺の目標は、優勝だけだ!

窈「……(などと考えているなら、君に勝ち目はない。万に一つも、だ。)」

小鳥遊グループ最強の闘技者
     VS
虚実自在の「顔のない男(グレートアクター)」
30/100ページ
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