ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

二階堂蓮は左肩が動かず垂れ下がるような左手に右手を重ねてやや前かがみになるような姿勢を取った。

刹那「変わった構えだね。だから……何?」

【孤影流:瞬(またたき)】

刹那が動いた。例の如く姿が視界から消えた。それに対して二階堂が取った行動は……眼を閉じること。

惑わされるな。感じ取れ。奴が間合いに入る刹那を……視覚ではなく気配…………そして捉えた。すぐ側まで近づいて攻撃を仕掛けようとする刹那。

バヂイィィィィィィッッ!!

闘技場全域を包むほどの強烈な破裂音が二階堂から発せられたのだ。

観客たちはもとより実況解説席に居る鞘香とシェリーも耳を塞いだ。そんな離れた位置に居る人間が耳を抑えるような音を至近距離で聞いた刹那は動きが停止する。

二階堂は刹那の側面へと回りこむと一瞬何かを呟いたように見えたが次の瞬間、強烈な打撃が炸裂した。

蓮「応ッッッ!」

刹那「ガハッ…」

血を吐き、大きく吹き飛んだ刹那は糸の切れた人形のように受け身も取らず地面に身体を打ち付けて転がり落ちた。

爆音に耳を押さえ眼を閉じてしまっていた観客たちにはいったい何が起こったのかわからない。気がつくと一人の男が吹き飛んでいた状況……。

これには代表組の奏流院紫苑も咥えていたタバコを落とし、松田智子は声を上げた。

智子「桐生さん!?」

実況解説席では鞘香も実況を忘れ固まってしまっているが、隣にいる解説のジェリー・タイソンは立ちあがって驚愕の顔をしていた。

ジェリー『(FUCKINGッッ……!JESUSFUCKINGCHRISTッッッ!!!なんということだ……!)』

やはり……!やはりそうだったのか!!!失われた日式中国武術【天狼拳】

まだ継承者が残っていたとは……!!!

天狼拳・奥秘(奥義)【奇龍(クイロン)】

奇龍には、三つの段階がある。

【虚】
空気を掌で圧縮、一気に解放。1.5メートル圏内で「爆音」に、晒された人間は、一瞬、強制的に動きに停止。

【幻】
意識が高まった聴覚に秘伝の「呪詛」を吹きこむ。いわゆる瞬間催眠である。

【光】
催眠状態で無防備の相手に放つ渾身の発剄。


対練(約束組手)ですら再現は不可能といわれる技を実戦で……しかも、闘技絶命トーナメントという最高峰の闘いの舞台で決めるとは……レン・ニカイドーは「拳士」として私の遥か先にいる……!

暗雲からポッポッと水が落ちてきた。ついに雨が降りだした。雨水に打たれる刹那の身体が僅かに動いた。

鞘香『おお!?桐生選手が動いた!!し…しかしこれは……』

ジェリー『意識ガ朦朧とシテルようデース!』

立ちあがった桐生刹那だがフラフラと揺れており、口元から流れている血が雨と混じって薄まりながら身体を伝い落ちていく。

ほおう…催眠状態で立ちあがったか。その意気に免じてもう少し遊んでやろう。フフ……どこから破壊してくれよう。左腕の借りは返させてもら

蓮「ゴボッ」

笑顔で拳を構えた二階堂だったが突如血を吐きだして、両膝をついた。本人もわけがわからないのかゴホッ、ガハッとせき込み血をまき散らす。

鞘香『なっ、何だアアア!!?攻撃を放った側の二階堂選手が謎の吐血!!!』

ジェリー『What!!?何が起コったデスか!?』

鞘香『一方、何とか体勢を立て直した桐生選手。果たして続行は可能なのか!?』
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