ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

先手を取ったは二階堂蓮だった。素早く走ったと思うと高らかに跳躍し、鋭角な蹴りで落ちてくる。刹那は上半身を振って強襲を避ける。背後に着地した敵を追って振り返った刹那だったが、一手早く立ちあがった二階堂が更にハイキックで追い打ちをかけていた。

大きく弧を描く蹴り、常人ならば直撃だったろうが刹那は更に身体を捩じって、その追撃を頬にかすり傷を負うだけで避けきった。

刹那「!?」

蓮「ハッ!」

大好了(タイハラオ)ッ!(良し!)
速度は俺が勝っている!絶望にまみれろ、優男!!

抉りこむようなラッシュを浴びせかけようと攻めの手を緩めない二階堂だったが、瞬間目の前に居た敵が消えた。どこへ……っと思ったそのとき、自身の背後に現れた気配を察して大きく側面へと飛び退いた。

刹那「……」

今さっき自身が立っていた場所に刹那の腕が振り降ろされている。

蓮「きっ……!貴様……!!一体何をした!?」

直撃はしていない。わずかに掠ったかもしれない。しかし、それだけだ、それだけであるのだが……二階堂蓮の左肩は異常をきたしていた。捻じれているのだ。否、ただ捻じれるというのには語弊がある。左肩という部位一点に棒でも差し込んで捩じったような悍ましい螺旋痕ができている。

ダラン……っと力なく左腕を垂らした二階堂目掛け刹那が正面から飛びこんでくる。

刹那「……傷をつけたな?僕は「彼」の「供物」なのに……傷をつけたな?」

償ってもらうよ。君の命で。


闘技場から離れた廊下にまで観客たちの声援が響いてくる。

炎「おーおー、すげえ盛り上がりだ。ウチの殿様も大したもんだぜ。んでもって、こっちの警備はザル、と。歯ごたえがねぇなあ。」

蔡「炎、無駄口を叩くな。我等は我等の任務をこなせばいい。」

炎「へいへいっと。……にしても東洋電力は、我等が殿を信用してないのかねえ?トーナメントの裏で俺らにこんな仕事を押し付けるとはねえ。俺ァどうもあの旦那が信用できねえなァ。」

梅「………殿……」

黄「案ずるな梅。殿を信じろ。あの方が不覚を取ることなど決してあり得ない。」

別行動を取る天狼衆を他所に二階堂は窮地に陥っていた。何をされたかわからない、得体の知れない怪物が迫ってくる。

左肩の痛みを噛みしめながら後ろに下がる。

クッ!不覚!!何故、速さに勝る俺が出しぬかれた!?落ちつけ!見切れぬ速度ではない!奴の動きを見逃すな!!

しっかりと捉えていた、間違いなく正面に居た敵の姿が消え去った。脳がそれを理解した瞬間、側面に感じる殺気に二階堂は叫びをあげながら身体を大きく振るった。

またも背後に移動していた刹那の横薙ぎの一撃を紙一重で回避するも二階堂を見降ろすその眼は感情というものを一切感じない悍ましいものだ。

背筋に冷たいものを感じながらも素早く地面を蹴って刹那から離れる。

何故だ?!奴の動きがとらえきれない!!

鞘香『二階堂選手、距離を取った!』

蓮「くっ…」

左腕は…動く。肩は……動かんか。

おのれッ!天狼衆の長たる俺が、なんという様だ!

刹那「…………君、闘う気あるの?正直、君なんかどうでもいいんだ。降参するなら見逃がしてもいいよ。」

蓮「……「愉悦」が漏れているぞ。異常者め。…そういえば「知人(目黒)」にお前とよく似た男が居たよ。」

刹那「へぇ…?僕に似ている。……その彼もきっと、「醜い人間」なんだね。」

蓮「……奴は死んだよ。哀れに惨たらしくな。」

刹那「そう……羨ましいよ。彼は「救われた」んだね。」

蓮「……フン。狂人同士、通じるものがあるか?」

左腕が挙がらぬなら……これでいく。

【天狼拳・奥秘:奇龍(クイロン)】
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