ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

攻勢を見せていた紅だが、槍を抜いた氷室による三度、たった三度の攻撃により状況は一変してしまった。その様子を病室から見ていた沢田慶三郎はついに声を上げた。

慶三郎「ッ~~!!何してるのよ馬鹿!さっさと立たないと殺すわよ!!」

足が折れているのにもかかわらずベッドから飛び降りそうになる沢田を【解剖魔】の英はじめが静止する。

英「こらこら、安静にしていなさい。」

氷室薫……恐ろしく完成された闘士だ。スペックではどうあがいても紅に勝ち目はないだろう。

もっともそれは……数値上の話だがね。

紅「ふぅ……ふぅ……」

虫の息で紅は身体を起こす。膝をついた中腰のような体勢で立ちあがりはしない。その間にも魔槍が突き立った傷口からは血液が流れて血だまりが広まっていく。

目と鼻の先、踏みこめば拳が届くという一まで氷室が近づいてきて歩みを止めた。

氷室「きっとここで手心を加えた真似をすれば紅さんは納得できないでしょう。なので、今から全力で撃ちます。学んでください「力」というものを。」

両手が【鞘】に納められた。一見すれば軟く見える右腕がボコっと膨らむ。そして今日一番に腰を落とすと氷室の姿が消えた。

生気が抜けたような力ない眼で前をボーっと見やる紅……。

ああ……静かだなぁ……氷室の野郎の動きがはっきり見える……

大久保、氷川、金田がなんかをさけんでやがる……

……本当に静かだ…………まるで……時間が止まったみたいな……

………………思い出した。

悠にやられたときも、周りがこんな風に見えてたっけ……?

…そういや聞いたことがあるな……極限状態になると全てがスローに見えるって……そっかぁ……俺、極限状態なんだよなぁ……。

つまりあれだよ……ほら…………あれだって…………。

壊されたといってもいいレベルの傷を負っている右手が動く。目の前に迫りくる魔の槍に向かって紅は飛びこんだ。そして自身の武器を敵へと打ち放つ!!

紅「うおおおおおおおっ!!!」

ここから逆転したら、最ッッッ高にオイシイってことだろ!!!










大久保「なんや?もう起きたんたい。ホンマお前は呆れるほどタフやの~。セガールも真っ青やで。」

椅子に腰かけている大久保が何かを言っている。視界が半分まっくらだ。

紅「…………は??え……?ここは……?俺……は?」

大久保「テンパるな阿保。ここは選手控室や。医務室が満室やったからな。城ちゃん達が医者を呼びにいっとる。もうちょい大人しく寝とき。」

紅「ちょ…ちょっと待ってよ。仕合……仕合は…………あ……」

大久保「……そうか。思いだしたか。…お前もつくづく運がないわな。」

あのニイさん…ヘタしたら【滅堂の牙】に匹敵する実力者や。アレとまともに闘える闘技者なんて、このトーナメントでも殆どやらんやろなあ。

紅「……」

大久保「ま、そんなこと言いつつ…俺の相手は【滅堂の牙】なんやけど。かなわんな~バックレたろか思うわ~」

紅「………そうか…しゃあねえ。熱価は結果だよな。やめだやめだ!終わったことを考えても仕方ねえや。」

大久保「ほー?お前でも、何かを考えることあるンやな。」

紅「うるせーよクソ坊主!ったく…少しは怪我人をいたわれよな。あーあー、目ン玉のところめっちゃ腫れてるしよー。これじゃ見えねぇわな。」

大久保「どこ行くんや?」

紅「顔洗って飯食いに行ってくる。」

大久保「お前アホやろ?そのケガで飯て」

紅「医者とかには適当に説明しといてくれ。ほんじゃな!」

大久保「……ったく。アイツ……嘘が下手やなぁ……。」

紅は選手控室から出ていくと薄暗い廊下を歩き始めた。頭の中に自分がいった言葉が過る。

『お前の無念は、俺が晴らしてやる!俺が必ず優勝してやる!』

頭の中に吐き捨てられた言葉が過る。

『とっくに気付いてんだろ?このトーナメント、テメー如きが入りこむ余地はねえってことによォ。野良犬が狼と張り合うなよ!!』


頭の中で最後に見た光景が過る。

互いの武器が交差するなか、伸びくる魔槍に自身の手は弾かれた。顔面を貫かれる。っと、その時、槍の穂先が丸まりだした。【槍】が【拳】に変わり、打ち抜かれた。

鞘香『ここで仕合終了ーー!!勝者!【魔槍】氷室薫!!紅選手を終始圧倒、堂々の二回戦進出だーーーー!!【超人】の野望、ここに潰える!!』

紅「……ちくしょう……」

廊下の隅で、目鼻口の全てから血の混じった液体をまき散らしながらも声を殺して紅は泣いた。

【超人】紅……一回戦敗退
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