ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

腕に傷をつけてから紅はここぞとばかりに連続で裂撃を浴びせかける。どこでもいい兎に角ダメージを与えるために!

直撃はない、それでもヂッ!ヂッ!と音と共に氷室の服の肩口や胸元が裂けて赤いシミができていく。

この男がどれだけ強くても関係ねえ。俺の【スカーレット・エッジ】は一撃必殺!!当たりさえすればどんな奴でも倒せるんだ!!

下から斜め上へ、逆袈裟切りの様なスイングで氷室の両腕に一筋の亀裂が走った。打撃ならば【抜拳】後の腕で受け止められるが、斬撃はそうはいかない。

これには流石の氷室も後ろに飛び下がった。もちろん、この好機を逃がすまいと紅は追う。

氷室は前進している紅の足を払おうと超下段の蹴りを仕掛けるたが紅は歯を食いしばり足を踏みしめて耐えられてしまう。

一瞬、紅の身体は停止したが腰を落として右足を突きだした。絞ったバネが弾けるような中段蹴りが氷室を打ち抜いた……が、曲げ上げた膝と【抜】かれた【拳】でガードされていた。

「手技ばっかり気にしてんじゃねえよ。俺の打撃は効くぜ!!」

【スカーレットエッジ】だけが武器ではない。そもそも紅はオールラウンダータイプのファイター。蹴りも十分に威力を発揮できる。

そうさ、俺は【超人】!!

よく見とけよ、悠!見てやがれ糞野郎(魏雷庵)!俺はもう、誰にも負けねぇ。誰にも俺を舐めさせねぇッッッ!!!

そうして渾身の【スカーレットエッジ】が振り降ろされた!



ドスッ!



氷室「……少し紅さんを見くびっていました。そこは謝罪させていただきます。そして、敬意を払って、敵として対応させていただきます。」

互いの息遣いが聞こえるほどの至近距離、振り上げられた紅の右腕と左胸の辺りに何かが突き刺さっている。当たっているのではない、突き刺さっているのだ……。

【怪腕流(かいわんりゅう)】

琉球王国発祥の暗殺拳。

唐手(沖縄空手)、琉球伝統武術、そして中国武術の特徴を併せ持つ流派である。

粘りのある動きを養う基礎鍛錬。型稽古。経絡・経穴、及び「氣」の研究。

中でも苛烈を極めるのが……部位鍛錬

巻き藁、砂袋、鉄砂掌……ありとあらゆる鍛錬に日の大半を費やす。自傷行為に等しい破壊に次ぐ破壊。

苦痛の果てに手にする物は……凶器と化した四肢……。

【抜拳】は【鞘(ポケット)】から【拳】を抜き放つ。【居合の拳】だ。

だが、もしも、凶器と化した両手を拳ではなく開いたら?

そして【抜く】ことができたとしたら?

【拳】は貫手という【槍】へと変貌し、真の姿へと至る。

すなわち、【抜槍】という魔槍である。

紅「あっ……?」

何が起こったのか脳が理解できず間の抜けた声が漏れた。自分の右手首の辺りと肩口に近い左胸のあたりから何かが抜けていく。

目の前では鋭く尖った両手の指が赤黒く染まった敵……。

悪夢めいた時を痛みと出血が現実に戻してくれる。膝から崩れ落ちていくなか、氷室の前蹴りが腹部を穿った。【魔槍】と化した足先が突き立ちつつ後ろに吹き飛ばされた。

鮮血をまき散らしながら地面に落ちてようやく停止するも立ち上がれない。蹴られた衝撃で口から、そして傷口から命の液体がこぼれて水たまりをつくっていく……。

なっ……なんだよコレ……さっきまでの打撃とは、重さが違う。

ズシッ、ズシッと足音が近づいてくる。

氷室「紅さん、とても有意義な時間でした。貴方と闘えて本当に良かったです。……ですが、もう終わらせていただきます。」

ゆっくりとした歩み、しかし、彼の男が放っている闘気は微塵も手心をかけるつもりがなく次で確実に仕留めるという意思、殺気を纏っている。
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