ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

「「「ウオオォオオオォォォォッ!!」」」

観客たちは紅の反撃に盛り上がるが、一部の闘技者たちは圧倒的な力量の差を見ていた。

そして当の本人である紅も理解してしまっている。

……認めたくはない。認めたくはねぇが、自力じゃどうやっても敵わねぇ。

体格でいえば勝っているはずなのだが、目の前に居るモノが何百倍も巨大で恐ろしい怪物のようにイメージしてしまう。

退いたら、喰われる!!!

だったらよォ進むしかねえだろうがッッッッ!!!!

鉄すら捻じ切る指を畳んで拳に形作る。文字通り【力】を握り込んだ拳を敵へと振り放つ。多少大味ではあるが高速の打撃。だが、敵は半身を翻して避けながら軸足を払う蹴りを加えてくるが、紅は殴りかかっている体勢から飛び跳ねた。かなり無茶苦茶動きに身体がアンバランスに空に舞うが上半身を無理やり捻って空中で回し蹴りを仕掛けた。

ドゴッという打撲音が氷室の横顔で炸裂したが抜かれた【抜拳】によりガードされている。

完全といっていいほどの奇襲カウンターにも対応され、紅は舌打ちをこぼしながらも腕を伸ばして反対側の横顔を削ごうとするも頭を振って避けられてしまう。

今出せるすべての攻撃手段を受け切られて地面へと着地した紅だったが瞬間、またしても足を払われた。ただでさえ不安定な体勢だったこともあり背中から地面に落ちる。ぐぉっと声を漏らして鈍い痛みに耐えるが眼前に影が差す。

超スピードで落ちてくる拳に脊髄反射で紅は側面へと転がった直後にドゴッと音を立てて今しがた頭があった部分の地面が砕ける。

【ハンドポケット】からの【抜拳】の射程は完全な下段にも対応しているうえに攻撃力自体も減衰している様子はない。

それでも、紅には絶望ではなく光明が見えた気がした。

【抜拳】という技術から放たれる打撃はたしか速い、しかし、視える。

覚えてきたぜ!アンタの攻撃パターン!!

紅「おおおおおおおっ!!」

医務室のモニターには叫びをあげて飛びかかる紅の姿が映っていた。Mミュージック社長、戸川好子が驚きの声を出す。

好子「おお!勝負になってるぞ…!」

その横で【暗黒鳥】の沢田慶三郎はベッドの上で腕を組んで眺めていた。

慶三郎「……」

紅……アンタは顔はいいけど会ったときから大ッ嫌いだったわ。私以外の男に負けたら承知しないんだから!!

紅は攻め手を打撃と思わせつつも【スカーレットエッジ】に切り替える先方へと移す。振るわれた刃【指】が氷室の身体に触れる寸前にガッと腕が止まる。こっちが先に仕掛けているはずなのに、あともう少しというところなのに【抜】かれた【拳】が弾いてくるのだ。

それと同時に紅の胸元にドッと鈍い衝撃が走る。もう片方の【抜拳】が突き刺さっている。グゥッと苦痛を吐露しそうになるが、視えていた。今しがた弾かれた側の【拳】が【鞘】に戻っているのを……。

そして、間髪入れず【抜】かれた【拳】だったが痛む胸も顧みず上半身を振って避けて伸びた腕を削いだ!!

指一本分ではあるが腕が裂けて赤い血が吹きだす。

斬れるッ!血が出ている!

俺の攻撃が……通じている!!
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