ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

並び立った両雄、闘技仕合の相手……。奇しくも、この二人にはそれ以外の関係がある。西の一戦闘員と東のBOSS(頭)。本来ならばよっぽどのことがない限り闘うことなどあり得ないはずの組み合わせ。この闘技会という空間からしたら小さな規模の闘いではあるが……闘技者にとっての価値観は違う。

現に紅は高揚していた。初戦からの強敵、そしてその後に続く宿敵(小鳥遊悠)との対戦がある事に……。

紅「アンタと闘れる日がこんなにも早くやってくるとは思わなかった!!どっちが勝っても恨みっこなしだぜ!!」

そう叫ぶ紅に氷室は笑みを崩さずに居る。いつもの調子、そういつも通り過ぎている。眼鏡はつけたまま、服装も襟付きのパリッとしたカッターシャツに黒のすらっとしたズボン。これから闘う人間の格好とは思えない普段通りの格好なのだ。

氷室「ふふっ」

紅「……おい、アンタ。」

腕が振り降りてザシュッと何かが裂けた音とカキンと金属が落ちる音。眼鏡の中心が切り裂かれ二つに分かれて地面に落ちた。

氷室「おや…」

紅「笑いが出るとは余裕じゃねぇか。あっ?」

アンナ「おい紅!仕合前だぞ!」

紅「ああ、悪い悪い!」

軽く謝る紅を他所に、氷室は二つに分かれた眼鏡を丁寧な所作で拾いあげてハンカチで包むとポケットにしまい込んだ。そして気にした様子もなく立ちあがると相変わらず笑みを浮かべている。

末吉「あの~今さらなんですが紅さんてお強いんですか?」

城「ああ、そうか。金田さんは紅さんの闘いを見たことがなかったですね。」

悠「お前も船でしか見てないだろ。っか、まあ紅は強いよ。」

類まれな身体能力に転生の格闘センス。そして、今までは持っていなかった人間離れしたピンチ力(指の力)で相手をねじ切る必殺技。

【スカーレッドエッジ(鮮血の十指)】

防御不能の一撃必殺さながら刃物を持っているようなもの。

当たりさえすれば、格上の相手でも一気に形勢を逆転できる可能性を秘めている。

たとえ相手が【滅堂の牙】でもな。

末吉「なるほど…」

城「だから、この仕合かなり見ごたえがある事になりそうですね!!盛り上がる城の声に返事を濁した。いま、紅の目の前に立つ相手も、と……。

鞘香『超人VS抜拳者!!勝ち抜けるのはどちらだ!!?』

レフリーアンナが二人の間に立って叫びながら腕を振り上げた。

アンナ「構えてッ!!始めッッ!!」

開始と同時に紅は拳を硬く硬く握りしめた。全身を使って前へと飛び出して敵の顔面目掛け打ち放つ。瞬間、紅の視界が何故か回った。一回転して気がつくと尻餅をついている。

視線が下がり前には誰もいない。そして即座に感じる背後に居る者。敵、隙だらけの自分に攻撃を仕掛け来ない敵。カッと頭に血が上りながら即座に反転して立ちあがりながらハイキックを見舞おうとすると軸足を払われ、バランスが崩れ肩から地面に落ちた。

こ……この野郎ォッッッ!

倒れたまま敵を見上げる紅に氷室は静かに口を開いた。

氷室「……二度斃(たお)しましたよ。」

紅「ナメんじゃねえッ!!」

完全にキレた。もはやがむしゃらに勢いで起き上がって指を突き立てに行く。

しかし、鞘(ポケット)から抜かれた手によって容易に弾かれた。しかもついでとでもいわんばかりに弾いた手を戻して紅の顔面、それも眼球スレスレで停止させた。

氷室「三度目。」

これには頭に血が昇ってブチギレていた紅も息を飲んだ。瞬間、目を捉えていた手が下がって首を押すと同時に足を払われ背中から地面に落ちた。

紅「ぐっ!?」

衝撃に一瞬、息が止まる。目を上げると風が吹いた拳が寸前のところで停止している。

氷室「四度。」
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