ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】
ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー
色んな意味でインパクトのある登場をした根津マサミ。その背後で既に対戦相手も闘技場にやってきていた。
「良い蹴りですね。鋭く重く、そして速い。」
鞘香『あ!?あれ!!?ちょ!ちょっとまだ紹介前ですよォッ!!!』
雲山「……必要ない。理乃を待たせたくありませんからね。」
【魎皇鬼】百目鬼雲山
【百目鬼流】
1200年の歴史を持つといわれる謎多き武術である。
「百目鬼流」が歴史の舞台に登場したのは、僅か2回。文永11年(1274年)博多湾にて元軍と交戦したとの記述あり。二度目の登場は永禄4年(1561年)第四次川中島合戦に上杉方として参戦したという。
権力にくみするを良しとせぬこの恐るべき武術は、人知れず、だが確実に現代まで受け継がれていた……。
東北……ある山中。
明かりひとつない新月の夜。
物音一つ聞こえない静寂の中で、佇む男が一人。
男は、試練を迎えていた。
男の名は、百目鬼雲山
この場所で微動だにせず、早二日が経過していた。不眠不休、不食不飲、九日間の荒行をこなした直後からである。
水分を失った唇に血の気はなく、肉体は鉛のような疲労感と鈍い痛みがまとわりつく。眼孔だけが爛々と、異様に輝いていた。
極度の体力低下に加えて、3500m超級の山中。酸素濃度は、地上の6割程度である。
疲労からくる呼吸機能の減退による低酸素状態は、幻覚・幻聴を引き起こしていた。
だが……死を目前に控えた肉体とは裏腹に、その精神は、かつてないほど研ぎ澄まされていた。
古代アニミズムにも似た極限の境地。
技術を捨て、肉体を捨て、思考さえ捨てた。
己と他との境界は、もはや意味をなさない。徐々に、徐々に闇へと溶け出ていく……混ざっていく。
「個」に押し込められていた「我」が解き放たれ……すべてと繋がり、全てが「我」となる。
【渾然一体】
そして雲山は、闇に消える。
雲山の背後突如、鬼が現れる。極の限界に達して立っているのも精いっぱいの男に向かって殺意の乗った拳を放った。
暗闇で完全に虚をついた殺傷の一撃に……雲山は人智を超越した速度で反転し放たれてくる殺意を肩でいなして貫き手を放っていた。
再び静寂が訪れる。限界状態の雲山の前に立つ鬼の胸元に指先が突き立っており、傷口から生ぬるい液体が滴る。
「成ったな、雲山」
真っ白いひげ蓄えた老鬼、百目鬼雲山の父にして雲山の祖父、百目鬼雲仙(どうめきうんぜん)は穿たれた胸の傷を左手で撫でながら右腕を降ろした。
雲山「はぁ……はぁ……。」
雲仙「お前の「鬼」しかと見届けた。この場をもって鍛錬を終了とする。百目鬼流はお前のものだ。好きに使え。……忘れるな、雲山。」
【鬼の如く】では足りぬ。【鬼に成る】のだ。
色んな意味でインパクトのある登場をした根津マサミ。その背後で既に対戦相手も闘技場にやってきていた。
「良い蹴りですね。鋭く重く、そして速い。」
鞘香『あ!?あれ!!?ちょ!ちょっとまだ紹介前ですよォッ!!!』
雲山「……必要ない。理乃を待たせたくありませんからね。」
【魎皇鬼】百目鬼雲山
【百目鬼流】
1200年の歴史を持つといわれる謎多き武術である。
「百目鬼流」が歴史の舞台に登場したのは、僅か2回。文永11年(1274年)博多湾にて元軍と交戦したとの記述あり。二度目の登場は永禄4年(1561年)第四次川中島合戦に上杉方として参戦したという。
権力にくみするを良しとせぬこの恐るべき武術は、人知れず、だが確実に現代まで受け継がれていた……。
東北……ある山中。
明かりひとつない新月の夜。
物音一つ聞こえない静寂の中で、佇む男が一人。
男は、試練を迎えていた。
男の名は、百目鬼雲山
この場所で微動だにせず、早二日が経過していた。不眠不休、不食不飲、九日間の荒行をこなした直後からである。
水分を失った唇に血の気はなく、肉体は鉛のような疲労感と鈍い痛みがまとわりつく。眼孔だけが爛々と、異様に輝いていた。
極度の体力低下に加えて、3500m超級の山中。酸素濃度は、地上の6割程度である。
疲労からくる呼吸機能の減退による低酸素状態は、幻覚・幻聴を引き起こしていた。
だが……死を目前に控えた肉体とは裏腹に、その精神は、かつてないほど研ぎ澄まされていた。
古代アニミズムにも似た極限の境地。
技術を捨て、肉体を捨て、思考さえ捨てた。
己と他との境界は、もはや意味をなさない。徐々に、徐々に闇へと溶け出ていく……混ざっていく。
「個」に押し込められていた「我」が解き放たれ……すべてと繋がり、全てが「我」となる。
【渾然一体】
そして雲山は、闇に消える。
雲山の背後突如、鬼が現れる。極の限界に達して立っているのも精いっぱいの男に向かって殺意の乗った拳を放った。
暗闇で完全に虚をついた殺傷の一撃に……雲山は人智を超越した速度で反転し放たれてくる殺意を肩でいなして貫き手を放っていた。
再び静寂が訪れる。限界状態の雲山の前に立つ鬼の胸元に指先が突き立っており、傷口から生ぬるい液体が滴る。
「成ったな、雲山」
真っ白いひげ蓄えた老鬼、百目鬼雲山の父にして雲山の祖父、百目鬼雲仙(どうめきうんぜん)は穿たれた胸の傷を左手で撫でながら右腕を降ろした。
雲山「はぁ……はぁ……。」
雲仙「お前の「鬼」しかと見届けた。この場をもって鍛錬を終了とする。百目鬼流はお前のものだ。好きに使え。……忘れるな、雲山。」
【鬼の如く】では足りぬ。【鬼に成る】のだ。