ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

司会の片原鞘香が両手でマイクを掴んで叫んだ。

鞘香『第十仕合!いよいよスタートです!まず入場するのは、この男だーーーーッッ!!夢の国から現れた最強兵士!強豪企業栃木ディスティニーランドの最終兵器が、闘技仕合初登場だ!本日、我々はディスティニーマジックの目撃者となる!!身長221センチ体重111キロ闘技仕合初参戦!!栃木ディスティニーランド根津マサミイイイイィィィ!!!』

直立立ちで歩いてくる大男は相変わらず頭にモッキーの被り物をかぶっている。

栃木ディスティニーランド社長の夢野国博は登場した自社の闘技者に納得したように頷く。

夢野「フフフ…任せたぞ根津。さて、と……わかっているな、速水さん。」

闘技場から自身の背後にあるテーブルに置かれたノートパソコンに向かって声をかけた。そこに映っているのは東洋電力会長の速水勝正だ。笑みを浮かべて返答した。

速水『二言はない。初戦突破の暁にはTDLに供給する電力は永久に無償としよう。』

夢野「いいでしょう」

速水さん…アンタはあくまでつなぎだ。「連中」とのコネクションさえ得てしまえばアンタに用はない。それまでせいぜい、お山の大将気分を満喫しておくがいいさ。

闘技場の方では観客たちはざわめきだしていた。見物に来ている闘技者たちも各々独特な反応を見せている。

摩耶「デッカ、高さだけなら金剛君より大きいじゃん。」

金剛「……」

関林「へえ…」

春男「まさか、あのまま闘うんですかね?」

かぶり物のまま相変わらず直立不動の根津に鞘香が声をかけた。

鞘香『あのー……着ぐるみのまま闘うのはちょっと…』

根津「……」

終わらせるべ。俺が終わらせなきゃいけねぇんだ……さらば、夢の国。さらばモッキー!!!

スパアァァァンッと何かが破裂したような音と共に風が巻き起こった。

鞘香『キャッ!!な!何が起こったのでしょう!?突如、突風が巻き起こりました!!……え?』

視線を上げるとモッキーの被り物の中心が裂けていた。そしてピーナッツでも割れるように二つに分かれて零れ落ちた。

「「「!!?」」」

鞘香も観客もこれには驚き一瞬闘技場から音が消えた。

鞘香『な……!!なんということだアアアアーー!!モッキーの中からヤンキーが出てきたアアアアッッッ!!!』

フランスパンを二つくっつけたようなデカくて長いリーゼント頭のヤンキーが何故か歯を食いしばり涙を流している。

根津「ごめんなぁ……ごめんなぁモッキー……終わらせてやっがんなァ…この悪夢をよォ…!」

【夢の国から来た男】根津マサミ

何だそりゃあ!!?とほとんどの観客たちが心の中で叫ぶ中、一部の闘技者たちは別のことに興味を持っていた。

氷川「見たか大久保?」

大久保「おうよ。あのヤンキー、おっそろしく速い蹴り上げで被りモンを両断しよった。あの野郎、ただの色モンとちゃうぞ。

色んな意味でざわめきだした闘技場の様子に夢野は笑っていた。

フフフ…「裏の闘い」は、闘技仕合の専売特許ではない。日本裏格闘会には、闘技試合の他にも数多くの団体が存在する。

西日本を拠点とする「UNDERGROUND-1」

ヤクザの資金源、武装をして殺し合う「デスファイト」

ルールの過激さは随一の「殺戮舞踏会」

そして「闘技会」、「煉獄」に次いで、第三位の規模を誇る団体……「毘沙門」

その「毘沙門」の絶対王者こそが、根津マサミだ。

栃木最大の暴走集団、「爆音地帯」三代目総長。規格外の体格とその腕っぷしを買われ、18の時に裏の世界へ。根津を闘技仕合にヘッドハンティングするのは実に簡単だった。

なぜなら彼は……栃木ディスティニーランド(うち)の熱狂的なファンだった。

根津は本物の馬鹿だが、その強さもまた本物。ククッ……「強い馬鹿」は、実に使い勝手がいい。
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