ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:廊下ー

ホナルドに抱き着きながら何か良からぬ気配を放つ松田智子を他所に、ホナルドがどこか真剣な口調でモッキーを呼んだ。

ホナルド『……モッキー。準備はいいかい?』

モッキー「…………ああ…」

背後から聞こえた返事は甲高い独特のモッキーボイスではなく野太い声だった。

え…?今の声……?と智子が振り返った。

智子「モッキー?」

モッキー「行くぞ…夢を終わらせに。」

頭部はモッキーなのだが、首から下が人の身体。上半身が裸で腰のあたりにはさらしを巻いて黒いズボン姿だ。そして一番気になるのは手足の長さだ。モッキーの被り物の大きさを考慮しても長身であり猫背になっている。

智子「モッキィィィィィィィィィ!」

突然異形へと変貌を遂げたモッキー姿に松田は悲鳴を上げてフッと意識を失った。素早く駆け付けた桐生が智子を支える。

刹那「智子ちゃん!」

城「松田さん!!大丈夫ですか!?」

厘も駆けつけて心配するが桐生刹那は脱ぎ落していった着ぐるみのボディ部分とノシノシと歩いていく男に交互に目を向ける。

……どういうことだ?あれほどの大男が。どうやって着ぐるみの中に納まっていたんだ?


熱気冷めやらぬ闘技場内では鞘香が闘技者入場宣言とともにご機嫌なテーマがなり始めた。

「あん?音楽?」

「この曲って……」

「あれだろ?「エキセントリックパレード」」

「TDLのパレードで流れてるやつかぁ。」

廊下の金属製で箱型の灰皿が設置されている喫煙スペースで小鳥遊グループ代表闘技者の初見泉と皇桜学園グループ理事長の奏流院紫苑のふたりが喫煙していたが耳にエキセントリックパレードの曲が聞こえてくる。

泉「懐かしいなァ、おい。昔、お前とTLDに行ったことを思い出すぜ。」

紫苑「思い出さねぇよ、そんな大昔のこと。」

泉「大昔か…違げえねえ。お前、まだ女子高生だつたもんなァ…」

紫苑「お前だって20代だっただろ。ブッ殺すぞテメー。」

不機嫌に煙を吐き出す紫苑の様子も気にせず初見は咥えていたタバコを灰皿に落として続けた。

泉「あの後、すぐにけんかして別れたんだっけか?」

紫苑「お前の浮気が原因でな。」

泉「その後もくっついたり、離れたり繰り返したよな。」

二人の間に微妙な沈黙が流れタバコの煙だけが揺らめく。

泉「なぁ紫苑。」

紫苑「断る。お前とだけは二度と付き合うつもりは……」

モッキー「……」

話している二人の目の前にモッキー頭の大男がズシンズシンと地面を踏み鳴らしながら歩いてく。紫苑は言葉が詰まり、初見も停止してこう思った。

……何だこの生き物?

闘技場の闘者入場口の方へ歩いていったモッキーを見送ると初見が口を開いた。

泉「……なあ紫苑、モッキーってあんな体型だったか?」

紫苑「……明らかに違うだろ。まさか、あれが闘技者か?」

泉「…あ、そういや「煙草一本くれ」って言おうとしたんだけど、「断る」って何の話だ?」

紫苑「……んなこと言ってねぇよバカッ!」
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