ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

サーパイン「シャアアアアアアッッ!」

待ってろよトラァァッ!お前と闘うまで、俺は誰にも負けねえ!!

賀露「……」

叫びをあげて拳を握り縦に構えるサーパイン。それに対し賀露は砕けた右拳を握り視えない銛を投擲せんとも思わせる構えだ。

鞘香『さあ!賀露選手も構えを取る!し、しかしこれは!?』

ジェリー『JESUS!BROKENして右手!!?』

サーパイン「あんたをブッ倒して俺は次に進むぜ!!!」

鞘香『再びサーパイン選手が仕掛けるーーーー!!』

真っ正面からの突進、攻め方がまるで変っておらず賀露も再びサーパインの首目掛け腕を振った。しかし、軌道上に居たサーパンの上半身がガクッと下がった。体勢を低くして鞭のようにしなやかなローキックが放たれ賀露の膝を打つ。

賀露「ッ~~!!」

カウンターを取る形となったローの一撃は流石の賀露にも響いたらしく顔を歪めて体勢が崩れる。一歩後ろに飛び下がったサーパインは空気を取りこむと猛ラッシュを浴びせかかった。

サーパイン「シャアアアッ!」

賀露の巨体の全てを的としてとにかく打撃や蹴りを浴びせつつ、隙ができれば人体の弱点たる顔面に強打を放つ。

ジェリー『OH!HOLLYHITなRUSHデース!!!』

鞘香『サーパイン選手、手数で圧倒していきます!』

猛ラッシュにガードが対応しきれず賀露の巨体は後ろに押し下がっていく。

サーパイン「シィッ!」

小さく息を吐いたサーパインは足を振り上げ大きく弧を描いて賀露の頭を横薙ぎに打ち抜いた。

鞘香『きッッッ決まったーーーー』

ジェリー『!!?』

鞘香もジェリーも観客も、ハイキックを放った本人であるサーパインさえ完全に決着がついたと思った……。だが、下段から抉りこむような拳がサーパインを撃ち抜いた。間一髪でガードはしたものの強烈な一撃に背中から倒れた。そのまま後転して距離を取りつつ立ち上がった。

そして、対戦相手の姿に我が目を疑った。

サーパイン「な……なんだそりゃあ!!?」

海坊主と例えられるほど巨体である賀露吉成は頭が真下に向くほど上半身を反らし拳を突き上げていた。しかもつま先、それも足の親指一本で自分を支えているのだ。

鞘香『な!??なんだこれはアアアアアアッッ!!?明らかに不自然な体勢から、サーパイン選手を殴り飛ばした!?この男のバランス感覚!明らかに普通じゃなああああいッッ!!』

陸(おか)酔い、というものをご存知だろうか?

長時間船に乗っていると起こりやすい現象。平衡感覚が乱れ、陸の上でも波でゆられている様な錯覚に陥る。

漁業を生業とする漁師たちの多くが患う症状である。

海の上で過ごす時間が、陸上より遥かに長い漁師の平衡感覚が、海上に適応することが原因である。

漁師歴40年。

あじろ水産専属漁師の賀露吉成も多分に漏れず陸酔いを患っていた。彼にとって大地とは、不安定なものであった。

だが、先ほどの一撃(ハイキック)。こめかみを打ち抜いたサーパインの一撃は、賀露の脳を揺らし、平衡感覚を狂わせた。

その結果……賀露吉成、海への帰還。

『異常をきたしている平衡感覚に衝撃を与え、正常へと転化する』偶発的ではなく、意図的に攻撃を受け、この状態となる。

この状態となった賀露に敵う者は、かつて誰一人存在しなかった。
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