ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました弐幕【5】

ー絶命闘技会ドーム:闘技場ー

サーパインの渾身の蹴りを受けて海坊主と呼ばれる賀露の巨体が崩れる。

鞘香『ああーーー!賀露選手が遂に膝をついたぁぁーー!仕合開始早々優位に立ったのはサーパイン選手!!体格差をものともしない重撃が炸裂だアアアアッッ!!』

観客席で仕合を観戦している【憂国のハラトク】こと原田徳次郎(予選敗退)は苦虫を噛み潰したような顔をした流

原田「……(死にたくなるぜ。)」

俺のハラトクラッシュを耐えきった男を、あっさり追い詰めちまいやがった……これが、本戦闘技者の実力か…!

サーパイン「行くぜェッ!!」

膝をついた海坊主めがけサーパインの鋭い蹴りがさく裂した。直撃確定……と思ったが、足が空を切った。賀露は両膝をついたままガクッと身体を後ろに倒し避けたのだ。

サーパインは蹴りが空振りそのまま一回転して、再びターゲットにとって殴りかかろうとしたが賀露は立ちあがっており素早く拳を振った。

振り降ろされた巨拳は直撃はせずただサーパインを掠めるだけだった。狙いが外れたのかと思いきや、今までねずみ花火のように暴れまわっていたサーパインは糸が切れた人形のようにダラリと前倒れになっていく。

「「「!!」」」
『『!?』』

前に崩れていくサーパインの顔面が賀露の巨拳にぶちあげられる。まるで重機が大地を抉り振りぬかれたかのような音を立ててサーパインは吹き飛んでいき地面に落ち転がっていく。

鞘香『ちょッッ!!!直撃イイイイィィィッッッ!!骨の砕ける嫌な音が聞こえましたッッ!!サーパイン選手の安否や如何に!!』

闘技場で行われている仕合の内容は至極まっとうな闘いである。しかし、それに対してあじろ水産社長の網代光臨丸は腰を折って鎧塚実光に謝罪をした。

網代「すまない鎧塚さん!!この大会で優勝しなければ、我々は終わりなんだ!!」

実光「!?…どういうことじゃ!?」

闘技場立見席で二回戦進出が決まった【獄天使】と【蔵王権現】の二人が肩を並べて仕合を注視している。

関林「おい金剛。あのオッサン…」

金剛「…わかっている。あの男、「ただの」力自慢じゃないぞ。」

初撃……賀露が狙った個所は、人体の急所のひとつ脊髄。衝撃を受けた脊髄は、機能停止に陥り、ブラックアウトを引き起こす。

脊髄を破壊し、魚の鮮度を保つ活け締め(活〆)と呼ばれる処理方法がある。賀露が使用した打撃は、この活け締めの技術を応用したもの。

漁師歴40年賀露吉成。

格闘技未経験の男が放った【熟練の一撃】である。

鞘香『サーパイン選手が吹っ飛んだー!!』

ジェリー『しかも、今の音はヤバいデース!』

確実にどこかの骨が砕け音が観客中に聞こえていた。顔か、はたまた首か……。

そして皆が気がついた、砕けているのに……賀露吉成の巨拳が歪に変形してしまっている。

鞘香『!!??えっ!!?こ……これは一体!!?破壊されたのは、攻撃を仕掛けた賀露選手の方だった!!?』

一般席最前列でスツールに腰かけて呆れたようにため息をついた【闘神】右京山寅。

相変わらず隙が多い…頭部以外を狙われていたら、この仕合は終わっていたぞ。

ぶっ飛ばされたサーパインがユラッと立ちあがる。眉間のあたりが裂けたのか大出血しているが拭いもせずに叫んだ。

サーパイン「効いたぜ!!オッサン!!おッッッ!!?「わけわかんねぇ」ってかおしてるな!!」

賀露「……」

サーパイン「よっしゃアッ!説明してやるぜ!!頭蓋骨はッッッ!!ラウェイの命っ!!5歳でラウェイを始めてから、一日も休まずに鍛え続けた【最硬】の頭蓋骨だ!!例えるなら最強の兜!!!俺の頭蓋骨はあらゆる衝撃から脳を完璧に守り切る!!さらにッッッ!!ラウェイ最大の……」

一方的にまくしたてるサーパインに賀露が口を挟んだ。

賀露「よく喋るな。小僧……もう勝ったつもりか?この程度の傷で?驕るなよ。勝負はここからだ。」

メギメギと音を立てて歪に変形していた手が拳の形に戻っていく。

サーパイン「おうッ!とことんやろうぜッッ!!」
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